神と化け物と神童と。

□☆印☆
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夢が終わった翌日。
その日はとてもよく晴れていた。

琥珀「…」
琥珀は一人屋上の縁に立って空を仰ぎ見ている。
そんな彼女の赤い右目には、以前まで見当たらなかった“印”が刻まれていた。まだハッキリとした形はわからないが、どうやら何かの文字のようだ。
琥珀は視線をグラウンドに移し、右目を抑えると小さく呟く。
琥珀「…死ぬかもなぁ。」
切なげなその声は、風の音にかき消された。


昼頃、ふと食堂に寄ってみると潤目くんを見かけた。
一人でオムライスを食べる彼を見てふと笑みが零れる。

琥珀「…それ、美味しいですか?」
そう聞きながら彼の隣の席に座る。
すると彼は驚いたような顔をし、不機嫌そうに頬を膨らませた。
潤目「…何?茶化しに来たの?」
琥珀「いえ。潤目くんを見かけたので話しかけてみただけです。」
潤目「…そう。」
潤目くんは黙々と食事を進める。
琥珀「…」
潤目「…」
琥珀「…」
暫く黙ってそれを見ていると、潤目くんは少しイライラしたように僕に言った。
潤目「…琥珀は何か食べないの?」
どうやら食べる所を見られているのは苦手らしい。
僕は苦笑しながら答える。
琥珀「…お腹が空かないんです。」
潤目「!…まさか…」
…気付かれないと思っていたのだが、どうやら潤目くんは僕が苦笑した理由に気づいたらしい。
何とも鋭い。
僕はそんな彼の目を見つめたまま、ゆっくりと口を動かす。
琥珀「そのまさかです。…もう一週間も経たない内に“殺”がくる。」
潤目「!!」
彼の目が大きく開かれた。
僕はそのまま話を続ける。
琥珀「今朝右目に証が表れたんです。…先に“国”が来ると思っていましたが…まさかこんなにも早く復讐の機会がまわってくるとは。」
潤目「…大丈夫なの?」
琥珀「えぇ。…少なくとも僕の代で全て終わらせるつもりですから、自信はあります。」
にこりと笑って言う。
琥珀「でも“もしも”の為に…皆さんに事情はお話する予定です。突然消えたら、きっと皆さん驚くでしょうから。」
その言葉に潤目は顔をしかめた。
潤目「…死ぬってこと?」
琥珀「それもあります。その、僕が殺にやられる場合と…もうひとつ。倒したとしても“取り込まれる”可能性がありますから。」
潤目「それは琥珀のお母さんが見たっていう…“乗っ取り”?」
琥珀「えぇ、そうです。…殺に選ばれた者は必ず死ぬと言われてきた中で…母だけが何とか生きて帰ってきた。その母の証言が本当ならば、“殺は取り込んだ者達の皮を被って新たな身代わりを探す”でしょうから。」
潤目「…それでも殺に取り込まれずに生きて帰ってきた君の母親は凄いよね。確か一族で一番強いんだったっけ?」
琥珀「えぇ。まぁ…生きて帰った代償に“視力”を失いましたけどね。」
切なげに言う琥珀。
そんな彼女に潤目は微笑みかけた。
潤目「…暗くならないで。生きて帰ってきた事だけでも奇跡なんだから…ね?」
琥珀「そう…なんですけどね。でも僕はそんな母を…」
そこまで言いかけて、僕の唇は潤目くんの指で抑えられた。
横に頭をふる潤目くんに僕はハッと我に返る。
ーーそうだ。僕は公共の場で何を言おうとしてるんだ。
慌てて潤目に謝る琥珀。
そんな琥珀に潤目は言った。
潤目「謝らないでよ。…それに辛いなら僕を頼っていいから。」
琥珀「…えぇ。」
僕は小さな声で答えた。
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