神と化け物と神童と。

□☆殺☆
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琥珀の身体に異変が起きてから2日程経った頃。
楢鹿自体への異変も起きていた。

ゴゴゴ…!

それは朝方の事だった。
楢鹿高校で生活を送る者達全員が、突然の轟音に目を覚ました。
「えっ…何々…!?」
「地震か?」
「まじかよッ…!」
生徒達が慌てふためく。
どの部屋の生徒も叫びながら、各々机の下やベッドに隠れるなどする。

「来たか…」
しかしそんな中、動揺することもなく…校庭に出て行った生徒が居た。
鴉闇 琥珀である。
「!」
「琥珀?!」
「一体あいつ何して…?」
そんな彼女を見つけた何人かの生徒は戸惑いながらも、彼女に続いて校庭へと出て行く。
“彼女のやるべき事を見届けねばならない”と、そう感じたからだ。

琥珀「…」
琥珀は校庭に出てきたメンバーを一瞥して、再びその視線を音源であろう地面に移す。
ーー潤目くん。日向くん。アイラ。
光希くん。黄葉。
彼等が僕の“観客”か。最も愛した人達が僕を看取る事になろうとは。
琥珀「まぁ…本望だな。」
ふっと悲しげな笑みを作る。
ーそれと同時に、音源がぼこりと盛り上がった。
「「!!」」
ぼこぼこと土が形を作りながら盛り上がっていく。ギリギリと耳を劈くような騒音が校庭に響き渡った。
校舎の中にいた時でさえも耐え難かったその音が、今間近で聞こえる。
気が狂いそうだった。
日向「んだよ、これ!!」
アイラ「頭痛いっ…」
加藤「何なんだよ…!!」
校庭に集まった琥珀以外の5人が声を上げる中、“それ”は出来上がった。
潤目「ッ…!」
音が鳴り止んでから、6人は出来上がったそれを見る。
そして息を呑んだ。

潤目「これが“今年の処刑具”…?」

ぼそりと潤目が呟いたのを全員が聞いていた。
アイラ「処刑具って…?」
震える声で問う。
琥珀「漢字の通りだよ。こいつは…僕を殺す為に作られた処刑具だ。」
目の前に作り出されたそれ…“ギロチン”を忌々しげに見つめる琥珀。
黄葉「!」
それを見て黄葉が何かに気付いたようだった。
青ざめた表情で口を開く。
黄葉「それってまさか殺がっ…!」
そう声を上げた時だった。
「はーいはいはいはい!どうもこんにちはぁ!皆元気してるかナ?」
陽気な声と共に、赤髪の青年が現れた。にこりと爽やかな笑顔を作り、処刑具の上に浮かぶ青年を見て黄葉とアイラがぽかんと口を開ける。
黄葉「…誰?」
「んー俺?俺はぁ…そこの女の子を正す為にきた処刑人だヨ。」
にやにやと不敵に笑む彼の指は、琥珀を真っ直ぐ指している。
誰もが悔しそうに口を閉ざした。
……ある一人を除いて。

加藤「え?琥珀は男だろ?」

「「…は?」」
この状況下で天然をかました加藤に全員の不思議そうな表情が向けられる。
だが加藤は未だに訳が分からないといったように小首を傾げている。
加藤「え?えっ!?」
そんな加藤を見て、琥珀は驚いたような表情で彼に言った。
琥珀「あれ?まさか本当に気付いてなかったんですか?」
加藤「え?」
琥珀「僕…確かに性別はずっと隠してましたけど、女ですよ?」
加藤「えっ」
琥珀「えっ」
加藤「えええええええ!!?」
先程の轟音と並ぶ程の大声をあげる加藤に琥珀達は耳を塞いだ。
ーーいや…でもまさか本当に気付いてなかったとは…何かショックだぞ。だって気付かないってことは、それほど僕は女らしくないって事だよね?
琥珀「…あんなに近くにいた光希くんが気付いてなかったとは…」
ーーいや隠してたよ?
女だって事は隠してたよ?
だって糾未くんと同じ部屋だからね。女だってバレたら何されるか分かったもんじゃないし…。だけどやっぱり近くにいた光希くんには気付いて欲しかったかな…なんて。
加藤「だ…だって琥珀顔整ってるから、イケメンって言われりゃそうだし……あ…いやでも女だった方が有難いんだけどね?だけどやっぱり今まで男として見てたかr」
急に饒舌になりだす加藤を琥珀は怪訝そうに見つめる。
しかしそんな彼女の視線に気付かず、加藤は妄想を膨らませていた。
加藤(琥珀が女なら日向と糾未が好きになったのも分か…いや、糾未は男だと思ってるな。てかそれなら俺があんなにドキドキしたのだって、琥珀が女なら全然おかしい事ないし…)

「…っと…おーい。早く本題に入りたいんだけどもいーい?」
青年がそう声をあげたことにより、全員が再び現実に引き戻された。
自分に視線が集まったのを見て、青年はゆっくりと喋り始める。
「えっとねーとりあえず今年のルールを簡単に説明するヨ?まず、鴉闇 琥珀はこの処刑具の中に入ってください。後は中にいる俺に聞いてルールを確認してくれればいい。……問題は外野ね。今回の観客に選ばれた君達5人は…鴉闇 琥珀を助けたいのであれば“ヒント”を出す事を許可します。…あ、ヒントっていうのは彼女が処刑具の俺に勝てるような方法とか、どうにかなった鴉闇 琥珀を正気に戻すとか…彼女の勝利に関係する事ネ。」
ーーどうにかなるって…こいつは僕に何をする気なんだ?
精神的攻撃…?充分有り得るな。

聞きたい事は幾つもあった。
だが敵として現れた彼がそれを教えてくれるとも限らない。
だから僕は、1番気になっていた事を彼に聞くことにしたのだ。
琥珀「あなたは……“殺”ですか?」
分かってはいるが…最終確認だ。恐らく彼がそうであろうが、一応聞いておく。
すると彼は少しの間の後、頷いた。
殺「そうだヨ?」
琥珀「…そうですか。」
ーーなん…だ?
今一瞬間があったが…なんなんだ?
…気になることが更に増えたが…生憎僕に残された時間はもう少ない。
どうせ勝てばいいだけの話だ。
彼が殺であろうと、そうでなくとも…勝ちさえすれば。
全て分かるのだ。
何で僕が殺に操られて家族を殺したのかも、全て分かる。
殺「…さっさと中に入りナ。」
琥珀「…えぇ。」
促されて処刑具の中に片足を踏みいれた琥珀は、一旦立ち止まりゆっくりと振り返った。
心配そうな面持ちで此方を見る5人にふわりと優しく笑みを作る。
それは、今まで見てきた笑顔の中でも1番優しく…悲しげな笑みだった。
琥珀「…さようなら。」
ずぷり、と琥珀の体は処刑具の中へと消えた。
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