神と化け物と神童と。

□☆序☆
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やっとの事で式が終わり、各自クラスに戻っていった生徒達。
そんな中…グラウンドを彷徨う一人の生徒が居た。
「うぇえ…1組って何処だ…」
…琥珀だ。

ー実は琥珀。
極度の方向音痴なのである。

「…つか、校舎の入り口何処?」


琥珀が暫くグラウンドを彷徨っていると二階の教室から張るような女の声が聞こえた。
「私は1年1組を受け持つ御堂だ!」
それを聞いて初めて、自分のクラスが何処にあるのかを知る。
ーーあ…今、1組って聞こえた。
じゃあ多分あの教室かな。僕が今から行かなきゃいけないのは。

その事にやっと気がついた琥珀は、少しずつ後ろに下がりながら校舎との間をあける。
そして、校舎に向かって助走をつけると……“思い切りジャンプ”した。


ーその頃、1年1組の教室内は異様な程なまでに静まり返っていた。
緊張している為か、突然入ってきた女教師を見て怯える生徒もいる。
「…」
そんな彼等を一瞥した女教師は声を張り上げて言った。
「私は1年1組を受け持つ御堂だ。」
凛とした表情を見せる御堂。
少し変わった雰囲気を持つ彼女に、生徒達は視線を奪われた。

御堂「…」
御堂はふと、一つだけ空いている窓際の一番後ろの席に目を向けた。
何故空いてるのかと疑問に思い、名簿に目を通すが…その席に座る生徒からの遅刻の電話などは一切来ていないらしい。
ただ“鴉闇 琥珀”と記されている。
御堂「…鴉闇は欠席か?」
そう言い、クラスを見回す。
だが誰も彼女の出席の有無を知らないようだ。互いに顔を見合わせ、首を横に振る生徒ばかりが見受けられる。
これ以上そんな彼等に質問をしても無駄かと溜息をついた…その時だった。

ガッシャーン!!
と、大きな音を立てて、教室の一番前の窓ガラスが割れたのは。

「おうふ!!」
同時に窓ガラスの破片と共に教室内に転がり込んできた一人の生徒。
その突然の事態に驚き、全員がその生徒を凝視した。
「いやぁ…割れやすい窓で良かった。あんま痛くないわ。」
両目に黒い布を巻いたその“少年”は、服についているガラスの破片を払いながら呟く。
「…って…あれ?」
…そこでやっと、目の前に立つ御堂の存在に気が付いたらしい。
少年はニコリと微笑むと、陽気な声で言った。
「遅れてすみません。鴉闇です。」

ーそんな彼女を見て全員が思った。彼女は普通ではない、と。
何せ琥珀は周りとは違い、両目を黒い布で覆い、長い羽織りを着ているのだ。
羽織りの裾に制服と同じ模様が入っている所を見ると…どうやら楢鹿高等学校指定の羽織りのようだが、ブレザーで統一されているこのクラスの中ではやはりどうしても浮いてしまう。
黄葉(というか…何でスケボーを片手に持ってるんだろう…)

少々変わっている琥珀に全員が釘付けになっていると、御堂は琥珀に静かに言った。
御堂「次からは時間前に来い。…とりあえず、今は早く席につけ。」
琥珀「はーい。」
スケボーを片手に持ったまま席に向かう琥珀。
ガタンッ。
琥珀が椅子に座ったのを確認すると、御堂は大きな声で言った。
御堂「よし、全員席についたな。…入学式が終わって早々だが、これから諸君にはやってもらう事がある。…では、筆記用具を出しておけ。今からこの用紙を配る。」
そう言って配れたのは、不思議な模様をした黒の用紙。
それを見て困惑する者や、ただ紙を見て考え込む者もいた。
琥珀も……紙を見て考え込む者の一人だった。
ーーこれに文字を書くのねぇ。
…何にしよう。
琥珀はマジマジとそれを眺めながら、御堂の話を聞く。
御堂「全員に行き渡ったな。…それは命の次に大切な紙だ。これから円の中に一文字、漢字を書け。各々がこれから始まる戦いに最も相応しく必要だと思う漢字一つ…な。」
その御堂の声を合図に、多くの生徒が文字を書き始める。
それを眺めながら琥珀は、昔、兄や父と交わした言葉を思い出した。


『あんな腐った学校なんか…消えてしまえばいいのにな。』
『そう思うだろう?お前も。』
『俺らの家族を奪った楢鹿が憎いだろ?なぁ…琥珀?』

『琥珀、俺の愛すべき娘。』
『強くなれ。…そして生きろ。』
『琥珀は俺等の“希望”だ。』


そこまで思い出して、琥珀はふと我に返る。
そして再び気付かされた。
自分が何故この学校に来たのかを。
ーーそうだ。
僕は“殺”を殺さなきゃいけないんだ。その為には…僕はもっと強くならなくちゃいけない。
もっと強い自分に“変わらなくちゃ”いけないんだ。

そう思いながら文字を紙に書いていると空を見上げていた御堂が目を細めて言った。
御堂「まだ書き終えてない者はいるか!早く済ませろ!!」


ー暫くして、全員が書き終わったかという頃…御堂は言った。
御堂「…出来たようだな。ではその言葉を口頭しろ。」
琥珀は指示された通り、紙に書いた文字を口にする。
琥珀「変」
パキッ!!
すると紙は消え、同時に足に違和感を感じた。…どうやら、先程書いた文字“変”が足に記されたようだ。
琥珀はそれを感じながら、外を眺める。

御堂「無事“儀式”は終了したな…」
そう呟くと、御堂は次に声を張り上げて言った。
御堂「これから諸君には命を賭して戦ってもらう!!」
ざわめく教室内。
だが御堂は続けた。
御堂「“空の島”を見“文字”を宿すもの、すなわち“戦士”の証なり!…この地は浮上の地。神が“蝕”を起こす場所。望み尽きぬ限り、ここから出る事はまかりならん。」
空を見上げてみると、“太陽に空の島が重なっていた”。
ーー成る程。
それを見て琥珀はくすりと笑う。
御堂「太陽と空の島が重なる刻!!是すなわち“神蝕”なり!!!」
ーーアレが…蝕か。

そう確信した次の瞬間、楢鹿高校を大きな影が覆った。
ずずず…。
同時に校庭のあちこちに“文字”という名の“化け物”が出現する。
…“始”だ。
勿論それを見た生徒達はざわめき、恐怖した。
しかし、そんな中御堂は叫ぶ。
御堂「全員起立っ!!さぁ諸君戦うのだ!!死に物狂いでな!!」
それを聞いて琥珀は一番に立ち上がる。勿論スケボーは持ったままだ。
御堂「さぁ行け!!諸君の強さを存分に示せっ!!」

あちこちで悲鳴が上がった。
だが琥珀を含めた一部の生徒達は真剣な顔つきで教室から出て行く。
一番に出て行った琥珀は、遠くで御堂の声を聞きながら始達の居る校庭へと急いだ。
琥珀「まずは…力試しかな。」
琥珀は儚げに笑う。
琥珀「…体力が持てばいいけど。」
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