神と化け物と神童と。

□☆晴☆
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5組に到着すると、琥珀は授業中だという事も気にせずに中に入った。
「「!?」」
勿論教室内はざわめいた。
…然程人は居なかったが。
ーーうむ。流石5組だな…。もう半分…いや三分の一程度しか残ってないじゃないか。
…って、それはどうでもよくて。
さっさと“ロアちゃん”に会おう。

…そう。
琥珀が突然会いたくなった人物とは昨日知り合ったばかりの“ロア・リアルマー”の事だったのだ。

琥珀は驚く生徒達を無視し、教室内を見渡す。…だがロアの姿は何処にも無かった。
琥珀「あれ…居ない。」
ボソリと呟くと、真ん中分けで二つ結びの少女が声をあげた。
「…誰か探してんの?」
琥珀「えぇ。…ロアちゃん、知りませんか?」
「ロア?…ロア……。…あ、もしかして入学初日からずっと引きこもってるリアルマーの事か?」
引きこもり、という単語が少々気になったが…琥珀はニコリと笑った。
琥珀「えぇ。ロア・リアルマーは僕が今探してる人です。」
「あぁ…そいつなら多分、女子寮1階の1番奥の部屋にいると思うぞ。」
琥珀「!…ありがとうございます。では早速行ってみますね。」
琥珀は少女に頭を下げると、急いで女子寮へと向かった。


=女子寮=

女子寮につくと、琥珀はロアの居るであろう最奥の部屋を目指して歩いた。
琥珀「うおお…」
授業中だからかひと気は全くない。だからか、奥に進む度に辺りがどんどん暗くなっていくような気さえもした。
ーー何か怖いなぁ…ここ。
早くロアちゃんの顔みたいわぁ。

カツッ。

そして一番奥の部屋の前に着くと…琥珀は表札を確認した。右側は既に取り外されていたが、左側の表札にはしっかりと「リアルマー」と彫られていた。
ーーうん。間違いないね。
表札を確認し、張り切って目に巻いていた布を外す。
ーーふふ…今日は右目に青のカラコン入れてきたからね…。
外しても大丈夫なんだな!

こんこんっ。
扉を軽くノックする。
すると騒がしい音を立てて扉が開いた。…どうやら突然の来客に驚き、急いで出て来たらしい。
「っ……?」
ロアは酷く驚いたような顔をして琥珀を見上げていた。琥珀はそんな彼女に笑いかける。
琥珀「やぁ、ロアちゃん!こんな良いお出かけ日和は久しぶりです。なので僕と一緒に出掛けませんか?」
ばっ。
爽やかスマイルで手を差し出す。
そんな琥珀にロアは申し訳なさそうに小さな声で言った。

ロア「……あの…誰…ですか?」


ーその頃、1組の教室では…。
もはや琥珀のせいでやる気をなくした十は授業から脱線しまくっていた。
十「うちのシジミちゃんはですねぇ…結構グルメなんですよ。」
愛猫の紹介をし始めた十に、生徒達が心の中で叫ぶ。
(知らねぇし凄いどうでもいい!)

そんな中黄葉はぼんやりと外を眺めていた。
黄葉(そういえば…あれから琥珀は何処に行ったんだろう。出掛けるって言ってたけど…)
少しモヤモヤとした気持ちを浮かべながらグラウンドを眺める。

ざわっ!

すると突然クラス内がざわめいた。

ーーえ?
何事かと思い振り向くと…。

「何故…何故なんだ…」

入り口に…ある男が立っていた。
その男は視線がそらせなくなる程の“美形”で、深い青の瞳が更に彼の妖艶さを引き立てていた。
絶世の美男とは正にこの男の為に出来たような言葉だと誰もが思った。
「いや…でも声で気付くっしょ…」
今までTVでも見たことのないような美男に、誰もが目を奪われる。
だが黄葉は気づいた。

彼は…“彼女”は。
自分のよく知る人物だと。


黄葉「琥珀…?」
小さく呟くと、男は此方を見た。
「黄葉…何ですか?」
…そう。絶世の美男の正体は…目に巻いていた布を外した琥珀だったのだ。琥珀が溜息をつくと、同時にクラスにいた殆どの生徒が声を上げた。

「「うっそ!!?」」

琥珀「あ…え?」
突然声を上げたクラスメイト達に驚いて目を丸くする琥珀に、日向が一番に駆け寄った。
日向「は!?琥珀!!?何っお前羽織りと布はどうした!?」
ガッと掴まれた両腕。
…日向は前に一度琥珀のその姿を見たことがあるが…あまりに久しぶりすぎて反応が遅れてしまったのだ。そんな日向に琥珀は驚きながらも答えた。
琥珀「あ……えっと…部屋に置いてきましたけど…」
日向「部屋!!?」
糾未「…今まで部屋に居たの?」
糾未が遠くからそう質問すると、琥珀は苦笑いをした。
琥珀「いえ…ちょっと気になる女の子を誘いに行ったのですが…」
そしてズゥウンと落ち込む。
琥珀「…盛大に…フられてきた所です……。…で…ここに来る途中部屋の玄関に脱ぎ捨てて来ました…」
それを聞いて全員が驚いた。
こんな美男の誘いを断る女子が本当に居るのかと。
十「人は顔だけじゃ駄目だって事ですねぇ。」
琥珀「…顔だけじゃないと思うんですけど。」
涙目で答える琥珀。
そんな琥珀を見て黄葉は思った。
黄葉(何か…琥珀って日向くんと似てるかも…。…自分に物凄い自信を持ってる所とか。)


がしぃ!!
すると琥珀は日向の両腕を掴んだ。
日向「えっ」
琥珀「日向くんっ…僕の…僕の一体何処がダメだと言うんでしょうか…!」
涙目で訴える。日向は背中に視線がグサグサと突き刺さるのを感じた。
日向は少し悩み、琥珀に言う。
日向「…えっと……どうやって誘ったんだ?」
琥珀「…まぁ普通に…いい天気なので出掛けませんかって…」
日向「…そしたら?」
琥珀「…誰ですかって…言われ…ましたっ…」
先程のことを思い出したのか、琥珀は目に涙を溜めると俯いてしまった。…それを見て全員が気付く。

(それってフられたんじゃなくて…)

「ただ単に…いつもの見慣れた姿じゃなかったから誰か分かんなかったんじゃない?」
生徒達の代表で一人の青年が言った。琥珀はそんな彼の方を見る。
琥珀「…でもその時はちゃんと羽織り着てましたよ?」
そう言うと、頭の上でチョコンと髪を結んだ青年はうーんと悩んだ。
「やっぱ…いつもの布がないと分からないんじゃない?…だってほら。教室入って来た時に鴉闇だって気付いたの…六道と日向ぐらいだったろ?」
その言葉に琥珀はハッとした。

ーーそ、そっか…!
布オンの時はいつもの僕で、布オフの時は知らない人ってとられるわけだ…!成る程…!!

琥珀は勝手に心の中で自己解決するとヘナヘナとその場に座り込んだ。
日向はそんな琥珀に、心配したように声をかける。
日向「…琥珀?」
琥珀「…僕…」
日向「…は?」
琥珀「僕…フられた訳じゃなかったんだ…!」
今度は嬉し涙を流し始めた琥珀。
琥珀「よかった…!(泣)」
日向「…フられてなくても泣くのかよ…忙しいなお前。」
ポンポンっと頭を撫でる日向に、琥珀は勢い良く抱き付いた。
がばっ!!
日向「うぉ!?」
琥珀「日向くうううん(泣)」
日向の服で涙を拭く琥珀に、日向は悲鳴を上げた。
日向「ぎゃぁああ!!?やめっ!!あー服が汚れるー!!」
琥珀「僕フられてなかったんですねぇええ(泣)」
日向「あーもう!分かったから!!分かったから離せ!!」

騒ぐ二人。
そんな二人を見て、糾未がガタッと立ち上がった。
糾未「三十郎ズルい!…琥珀ッ!!俺の胸で泣きな!受け止めてやんよ!!」
琥珀「あなたは嫌です!(泣)」
糾未「大丈夫!俺と琥珀なら同性愛の壁なんて簡単に越えられるぜ!」
琥珀「訳わかんないですからとりあえず近寄らないで下さいいい(泣)」
ジリジリと近づく糾未を見て、琥珀は日向の後ろに隠れた。
服が引っ張られるのを感じながら、日向は言う。
日向「…おい糾未。琥珀すげぇ怖がってんぞ。」
糾未「琥珀!俺の子供を産め!!」
日向「聞けよ人の話を!つか男同士で子供が産めるか!!」
糾未「愛さえあれば何とかなる!!」
日向「ならねぇよ!!」
糾未「さぁ!琥珀を俺に渡せ!!」
日向「人の話を聞けぇええ!!」
キレる日向を他所に、琥珀は変で猫に姿を変えていた。
殆どが琥珀の変化に気が付いたが、叫び合っている二人は気付いてないようだった。

琥珀はアイラの席に向かう。
ーーアイラ助けてくれっ!
アイラの足元に行き「にゃぁっ」と鳴くとアイラは優しく抱き上げてくれた。
アイラ「わぁ猫にも変われるんだ!可愛い〜!もふもふしてる〜!!」
琥珀「にゃあ!」
ーーアイラいい香りしてる!
やっぱ女子って何か落ち着くなぁ。
琥珀がアイラの頬に鼻を摺り寄せると、アイラはくすぐったそうに笑った。
アイラ「あははっくすぐったい!」
ゴロゴロと喉を鳴らすとアイラは優しく頭を撫でてくれた。
ーーやべぇ。
僕…猫になれるかもしれない。
つか猫でいいかも。
何か凄いHappinessなんだけど。
めっちゃ幸せ。

琥珀が暫くアイラに撫でられているとエコが目を輝かせて寄ってきた。
エコ「はわぁあ…!可愛い猫さんです!エコにも触らせてください!」
アイラ「琥珀だけどね。」
くすくすアイラが笑うと、エコは琥珀を抱き上げた。
エコ「はわあああ!」
ーー猫って…何か羨ましいな。
こんな可愛い女の子達に触れてもらえるなんてッ…!うん…生まれ変わったら、僕猫になる!

琥珀がそんな事を考えている事など知るはずもなく、エコは琥珀を撫で回していた。
エコ「もふもふしてます!!」
目を輝かせながら触るエコ。

すると日向と糾未が声を上げた。
日向・糾未「琥珀が居ない!?」
今頃気付いたのか。
そう呆れる琥珀だったが、こちらに目を向けた糾未に琥珀は思わず固まった。

糾未「…その猫は?」
ギクリと体の筋肉が強張った。
冷や汗がドッと滲み出る。
エコはそんな僕を糾未に見せつけながら笑顔で言った。
エコ「鴉闇さんですよっ!」

全員が、固まった瞬間だった。
琥珀が心の中で悲鳴を上げる。

糾未「…そう…」
そう呟き一歩足を踏み出す糾未。
糾未「教えてくれて…ありがとう。正田さん。」

そして逃走劇の幕は開けた。

琥珀「っ…!」
目の色を変えた糾未を見て、琥珀は変を解き急いで廊下へと向かう。
…だが。
糾未「逃がさないよ?」
糾未に回り込まれてしまった。
糾未「ふふ…」
悪魔のような笑みを浮かべる糾未。
琥珀はそんな彼に遠慮無しに鳩尾に蹴りを入れた。
ーーごめんなさいっ!!
でも糾未くんは嫌なんです!!
ドガッ!!
糾未「ぐふ!?」
腹を抑え倒れこむ糾未に心の中で謝りながら、急いで外に出る。
しかし糾未を蹴った事による罪悪感が生じてしまい、思わず足を止め後ろを振り返ってしまう。
そこで目にしたのは…ゆらりと立ち上がり楽しそうに微笑む糾未の姿だった。
琥珀はそんな彼を呆然と見つめた。
糾未「…好きな人に蹴られたのは初めてだよ。」
ーーそりゃそうだろうよ!!(汗)
糾未「…それでこそ…」
琥珀「ひっ…!?」
糾未が喋りかけたと同時に、琥珀は一目散に走り出した。

ーーやばいッ…!

動物的本能が…糾未は危険だと。
捕まったらヤバイと。
そう判断したのだ。

ーーこいつは他の奴らとは違う…!
こいつは…こいつは…!

だっ!!
糾未は先に逃げた琥珀を全力で追いかける。
糾未「犯しがいがあるってもんだぜえええええ!!」
琥珀「ぎゃああああああ!!」

ーー本気で僕を狙ってるんだ!!

糾未「あっはははああ!可愛いよおおお琥珀くううううん!!」
琥珀「来ないで下さいぃい!!」

その頃、日向達は琥珀の悲鳴と糾未の高笑いを聞きながら二限目の終わりを告げるチャイムを聞いていた。
十「あーうん。皆ちゃんと復習しといてねー。」
ヒラヒラと手を振って出て行く十。
そんな十を見送ると、日向は隣に立つ青年を見上げて言った。
日向「…なぁ、加藤。」
加藤「何?」
日向「何でお前…俺が琥珀だって気付いたの分かったんだ?」
加藤「え?」
日向「お前言ってただろ?“鴉闇だって気付いたの、六道と日向ぐらいだった”って。…六道はともかく…何で俺が気付いたの分かったんだ?俺は何も言わなかった筈だけど。」
不思議そうに言う日向。
そんな彼に加藤はクスリと笑った。
加藤「日向…気付いてないんだ。」
日向「あ?何にだよ。」
加藤「お前、他の奴を見る時と鴉闇を見る時の目って違うんだよ。」
日向「…は?違う?」
予想していなかった答えに、日向は思わず言葉を失った。
日向「何…だよ。それ。」
少し不機嫌そうな声色で言う。
加藤「日向が鴉闇を見る時の目って何かキラキラしてるんだよ。」
日向「!」
加藤の言葉に日向は顔を伏せた。
そして小さな声で「ふーん」と素っ気なく返事をする。
それを聞いて加藤は首を傾げた。
加藤(あれ?てっきり日向って鴉闇の事好きなのかと思ってたんだけどなぁ。…ま、どうでもいいんだけど。)
日向の顔がほんのり赤く染まっている事など加藤は知るはずもなく…加藤はただ無言で自らの席に戻った。


日向(やばい…俺…そんなに分かり易かったか…?)
一方日向は、口元を押さえながらグラウンドに視線を移していた。
そこには走り回る琥珀と糾未の姿があり…必死に逃げ回る琥珀を見ながら日向はボソリと呟いた。
日向「気付かれて…ないよな?」

日向(俺が…お前の事好きだって事。)
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