神と化け物と神童と。
□☆晴☆
3ページ/3ページ
◆
その頃琥珀達は男子寮内を駆け回っていた。…走り回っている内に、いつの間にか寮に来てしまっていたのだ。
糾未「琥珀ー!!」
琥珀「来ないで下さい!!(泣)」
誰も居ない寮の中、二人の叫び声だけが響き渡る。
ーーちょッ…何であの人元気なの?
僕もう体力が限界なんですけど!
とりあえずここから出よっ…。
琥珀が開きっぱなしだった寮の扉から出た…その時だった。
糾未(逃がすかッ…!!)
カッ!!
突然辺りが眩い程の光に包まれた。
ーー何だッ!?また隔離型か!?
思わず目を瞑った。
だが直ぐに目を開ける事となる。
ズルッ。
琥珀「っ!?」
…勢い良く足を滑らせたのだ。
琥珀「わっ…あ…!!?」
思わず目を開ける。
そこは…別の空間でもなんでもない、ただの女子寮と男子寮の間にある池の上だった。
ーーあれ!?隔離型じゃないの!?
状況が全く分からない。
だが時間はそんな琥珀を待ってくれる筈も無く。
バッシャァアアン!!
琥珀は盛大に池に落ちた。
琥珀「っは!?」
慌てて膝をつくが、案外底は浅く水位も琥珀の胸元ぐらいまでの高さだった。
琥珀「…はぁ…ビックリした…」
深く溜息をつく。
すると突然肩に何やら温かいモノが置かれた。
「はい、捕まえた。」
琥珀「!!」
恐る恐る見上げてみると…そこにはニヤリと笑う糾未の姿があり、それを見てやっと自らの肩に置かれたものが糾未の手であったのだと理解した。
琥珀「っ…」
琥珀の顔が真っ青に変わる。
ぐいっ。
糾未は琥珀を池から引き上げると、直ぐに琥珀の体を強く抱き締めた。
…真っ正面から抱かれてしまえば、もう逃げる術は何もない。
琥珀は大人しく抱かれた。
それを感じながら、糾未は愛おしそうに呟く。
糾未「あは…やっと抱き締められた。…大体俺から逃げきるなんて無理なんだから…最初っから大人しく捕まってりゃ良かったのに。」
琥珀「っ…嫌ですよ。それにさっきのあの光さえ無ければ…僕はあなたから逃げ切る自信はッ…」
そこまで言って、琥珀は考えた。
そういえば先程自分を包んだあの光は一体何だったのかと。
ーー隔離型かとも思ったけど…違うみたいだしな…。
琥珀が黙り込むと、糾未はそれを悟ったかのように言った。
糾未「…さっきの光…何だったか知りたい?」
琥珀「え?」
糾未「知りたい?」
琥珀「え…あ…ま、まぁ。」
糾未「じゃあ教えてあげる。」
ガッと両肩を掴まれ、勢い良く糾未から離される。すると糾未は突然シャツのボタンを外しだした。琥珀はそれを見て顔を真っ赤に染める。
琥珀「はっ!?な、何してっ!!」
そう叫ぶと、糾未はシャツの下に着ていたタンクトップをクイッとズラして見せた。
そして楽しそうに笑う。
糾未「何って…ほら。」
糾未がとんとんっと指をさす。
そこにあったのは…。
琥珀「!」
“光”という文字だった。
琥珀はそれを見て気付く。
先程の眩い光は糾未が出したものだったのだと。
だが琥珀はそんな彼の文字を見て、声を上げた。
琥珀「っ…じゃあ!シャツのボタン全部外す必要なかったじゃないですか!!」
…琥珀がそう言うのも無理はない。
何せ糾未の文字は“鎖骨”にあるのだ。ボタンを全て外す必要は、確かにどこにも無かった。
糾未「んーそしたら琥珀が期待するかなって思って。」
糾未がボタンを留め直しながら言う。
それに琥珀は酷く不機嫌そうな顔で叫んだ。
琥珀「何の期待ですかっ!」
糾未「…俺に襲われるっていう期待?」
琥珀「そんなの期待する訳ないでしょう!!」
糾未「でも琥珀、さっきめっちゃ顔真っ赤にしてたじゃん。」
ニヤニヤと糾未が笑う。
そんな糾未に琥珀はまたカァッと顔を真っ赤に染め上げた。
琥珀「別に期待した訳じゃッ…!」
糾未「ふふ…別にいいんだよ?俺としては嬉しいし…出来るならその身体も早く俺のものにしたいし。」
くいっと優しく持ち上げられる顎。
琥珀は全力で糾未を押し返すが、糾未の力に敵う筈がなかった。
琥珀「うわぁああ!!(泣)」
糾未「あははー琥珀かわいー。」
琥珀「嫌だぁああ誰かああ!!(泣)」
必死に助けを呼ぶ。
すると糾未に押し倒された。
琥珀「ひぃっ!!(怯)」
獣のようにギラついた目を見せる糾未を見上げ、琥珀は悟る。
ああ…終わった…と。
琥珀は震えた瞳で糾未を見上げる。
そんな琥珀を見、糾未が嬉々として喋っていた時だった。
糾未「大丈夫!ちゃあんと気持ち良くするかr」
ドガ!!
糾未の頭にかなり分厚い本が振り下ろされた。
ーーえ?
糾未「うぉ!?痛ッ!?」
糾未が痛みで悶えてると…本を振り下ろした人物は更に糾未を蹴り上げ、琥珀の上から退かした。
離れた所で糾未の悲鳴が聞こえた気がしたが、琥珀はそれよりも目の前に立つ人物の方に目を奪われた。
その人物が琥珀のよく知る人物であった為だ。
ーーこの人は…。
琥珀「潤目…くん…」
僕がそう口にすると、潤目くんは少し悲しそうな顔をした。
潤目「…何で…ここに来たの?」
そして唐突の一言。
それに琥珀は目を伏せてしまった。
潤目「…まさか“裁”の存在を知らないで来たわけじゃないよね。…何?死にに来たわけ?」
潤目の悲しげな喋り方に琥珀はだんだんと俯いてしまう。
…潤目が言う“裁”とは毎年必ず来るとされる恒例の固定型の蝕である。
裁は文字通り罪人を罰する文字。
特に命をとった者…つまり自ら殺人を犯した者は絶対に許さない。
普通ならばそこまで心配する蝕ではないのだが…。琥珀にとっては、その蝕は“死神”と言っても過言ではなかった。
琥珀には見に覚えがあったのだ。
人を殺めた記憶が。
琥珀にはあった。
ーー勿論知ってるよ。
…今の僕にはやる事があるけど……それをやり遂げたら、元々“裁いてもらうつもりでココに来たんだ”。
知ってて当然だ。…でも…そんな事言える訳がないよね。
だって優しい彼はきっと僕を引き止めてしまうから。
琥珀が黙り込んでいると、潤目は深く溜息をついた。琥珀の手を掴んで強制的に起き上がらせる。
潤目「まぁ…深くは聞かないけど。でももしそのつもりでここに来たんなら、あんまり他の人と関わらない事だね。…きっと後悔するから。」
潤目の鋭い忠告。
琥珀はそれに小さく頷いた。
琥珀「分かってます。」
潤目「…それならいいんだけど。」
そう言うと潤目は、先程から此方をボーッと眺めていた糾未の元に向かった。
潤目「じゃあ、僕はコイツに話があるから。琥珀はさっさと部屋に戻って風呂にでも入りなよ。…その格好じゃ教室にも戻れないだろうし。」
その格好、と言わたのが気になり自分の服を見てみると…びしょ濡れだった。
琥珀はそれを見て苦笑をする。
琥珀「じゃあ僕部屋に戻ります。」
糾未「あっ琥珀!!」
琥珀「…では。」
糾未の呼び止めも聞かず、琥珀はその場を後にした。
糾未「行っちゃった…」
潤目「…」
池のほとりに残された二人。
ガッ!
糾未「えっ!?」
突然潤目が糾未の胸倉を掴む。
糾未は一瞬怯んだが、潤目を見上げるといつも通りの笑みを貼り付けて尋ねた。
糾未「…春臣?怒ってる?」
その問いに潤目は低く答えた。
潤目「当たり前だ。…何故琥珀に手を出そうとした。悪魔でも君の仕事は“琥珀の監視”だった筈だよ。」
怒りを露わにする潤目。そんな潤目に糾未はへらっと笑って見せた。
糾未「いやぁ…だって好きになっちゃったんだもん。」
潤目「…仕事に私情を挟まないでくれる?」
どうやら糾未の表情の一つ一つが、彼の癪に障るらしい。潤目は先程より険しい表情をして糾未に言う。
だが糾未はそんな彼に臆した表情は見せず、ただ笑顔を貼り付けたままそれに答えた。
糾未「好きなんだから仕方ないじゃん。それに同室なんだし…俺の理性が保たれる訳が無い。」
それを聞いて潤目は溜息をつく。
同時に糾未の服を離した。
潤目「…もういいよ。これ以上話しても無駄だ。…じゃあ糾未はそのまま監視を続けて。…でも君が“政府の人間”って事は絶対に琥珀に悟られる事のないようにね。」
糾未「勿論!そこは大丈夫だよ。」
潤目「…後日向にも悟られるなよ。あいつ、琥珀がブラックリストに載ってるなんて知らないからね。…多分それを知ったら意地でも琥珀を護ろうとしてくるだろうし。」
呆れながら潤目が言うと糾未は不思議そうに尋ねた。
糾未「え?でも三十郎って宝来さんの弟なんでしょ?何でそんな宝来さんに迷惑かけるような事を…」
潤目「あいつ琥珀に惚れてんの。」
糾未「うぇ!?マジかよ!…うわ…ライバル多すぎ。…まぁ…俺は譲る気ないけどね!」
へらっと笑う糾未。
それを見て潤目は踵を返した。
潤目「じゃ僕は教室に戻るから。」
そう言い潤目が教室に向かうと、糾未も「俺も行く」と言いながら走ってきた。
そして嬉しそうにまた琥珀の事について語り出す糾未。そんな彼を見ながら潤目は心の中で呟いた。
ーー何で…こいつなんかが琥珀の監視を任されたんだ?
僕の方が監視には適してるのに。
僕の方が誰よりも琥珀を理解して…こんなにも愛しているのに。
糾未「琥珀が猫に変わってさぁ!」
糾未はそんな潤目の心情など知る筈もなく嬉しそうに話を続けている。
潤目「…」
潤目はふと空を仰ぐと、誰にも聞こえない小さな声で吐き捨てた。
潤目「…あぁ、腹が立つ。」
晴
(膨らみ始めた潤目の怒りに)
(糾未はまだ)
(気付いていない)