神と化け物と神童と。

□☆損傷☆
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あれから4組から解放された琥珀は…放心状態で男子寮の廊下をフラフラと歩いていた。
琥珀「……」
その顔にいつもの琥珀の面影など何処にもなく、一目見ただけでは外傷は見つからないものの痛々しい様子だった。
琥珀「…辛い…かも…」
痛みに耐えながら琥珀は呟いた。

ーー今日は…色んな事があったな。
特殊型が来て逃げ回って…朝長くんに会って呼び出されて。
それで4組に行ってみれば頭殴られて脅されて。
最後には目を盗られて。
…もう一気に事が起こりすぎて頭がついていかないよ。
痛いし、怖いし。訳分かんないし。
…僕…初めて人を怖いと思った。
あんな無意識に手が震えるまで怖いと思ったのは…本当に初めての事だった。僕自身、畏怖の感情があった事に驚いている。

…こんなんじゃ…ダメだな。
“化け物”がこんなんじゃ。
こんなんじゃきっと笑われる。
全て消さないと。感情も全て。
畏怖の感情なんていらない。

僕は…化け物なんだから。

琥珀はふと顔を上げる。
すると前方に人影が見えた。
「っえ…!?」
予想通りともいえる反応をする青年。そんな彼を…僕は知っていた。

ーー確か彼は同じクラスの…。

琥珀「かと…くん……」
途切れ途切れの息で彼の名前を呼ぶと、加藤は青ざめた表情をして駆け寄ってきた。
加藤「鴉闇…!!?」
琥珀「っ…」
加藤「!!」
ガクリと突然倒れた琥珀を加藤が抱きかかえる。
加藤「おいっ…大丈夫か!!?」
琥珀「…加藤くん…」
ぎゅっ…。
琥珀は焦った表情を浮かべる加藤の服を強く握りしめた。
琥珀「僕を…“消”して下さい…」
加藤「!?でも鴉闇怪我してっ…まず保健室に行った方が…!」
琥珀「っダメです!!」
思わず声を張り上げた。

加藤「っ…」
琥珀「あっ…」
琥珀は驚く加藤を見て我に返る。
琥珀「す…すみません…。…でも…本当にダメ…なんです。保健室も自分の部屋も…誰かと会う所はッ…」

ーーきっと…今の僕を見たら、勘の良い日向くんと糾未くんは気付いてしまう。…だから駄目なんだ。
思わず頭を抑えると、ズキンと割れるような鋭い痛みが琥珀を襲った。
琥珀「っ…!!」
先程までの鈍痛ではないその痛みは琥珀の顔を歪ませる。

琥珀は痛みに耐えながら精一杯声を絞り出した。
琥珀「誰にも…知られたくないんです…っ…」
加藤「…」
困ったような顔をする加藤。…やはり怪我の事が気になるのだろう。
琥珀はそんな彼を見て笑った。
琥珀「…大丈夫ですよ。この程度の怪我なら直ぐに傷口も塞がります。…だから……っ…」
そこまで言って琥珀は加藤に体重を預けた。…もう痛みに耐えられなくなったのだ。
ーーあ…ヤバイ。
…もう限界っぽい。
視界が霞み、頭がボーッとする。
琥珀は加藤に小さな声で「早く」と呟くと目を閉じてしまった。

加藤「!?おい、鴉闇!?」
加藤が叫ぶ。
琥珀はそんな彼の声を遠くに聞きながら意識を深い闇の中へと手放した。



損傷
(琥珀の身体が)
(“崩壊”を始めた)
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