開拓史

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 船内にアナウンスが流れる。
「座席について、シートベルトを付けてください。」
「はやく、座ろう。」
 思い思いの場所に座り、ベルトを付けた。
「モコ、私、彼女の隣に座るわ。」
 先程の利発そうな女性がそう言って、死にたいと泣き続ける彼女の隣に座る。
「あなた、名前は?…ほら、タオルあるから、涙拭いて。宇宙空間に行くのよ?皆に迷惑だから。」
 しゃくりあげながらタオルを受け取る彼女は、容姿から見ると気の強そうな風に見えた。
「わ、たし…、ルトゥェラ…テレウス。」
「よろしく、ルトゥ。私はスーザンよ。スーザン・カーター。」
 よろしく、と小さく返してルトゥェラはタオルで顔を覆う。大丈夫よ、とスーザンが彼女の腿に手を置いた。
「あなたもカプセルでの脳波がどうのってここに連れられてきたんでしょう?みんな同じよ。なんとか、帰る方法を考えましょう?ね?そうよね、皆さん。」
 やはり全員が同じなのだと顔を見合わせて頷き合う。
「取り敢えず、もうすぐ出航らしいよ。宇宙に出るまでは他の場所に入れなくなってるらしいから、おとなしくしとこうよ。」
 一番後ろの席に座った彼も、パートナーはいないようだ。今のうちに自己紹介をしよう、と彼は言い、名を名乗った。
「僕はセイゴ・ナカニシ。15歳。さっきの話の通り、疑似人生体験カプセルでの脳波に問題があるって言われて退学処分を受けた。反乱分子の要素があるとかってさ。」
 セイゴは座席から通路側に少し身を乗り出して皆に顔を見せた。育ちの良い、お坊ちゃんタイプである。
「じゃあ、俺いい?俺はニック、ニック・ワイルダー。今年で14。俺も同じ理由だった。あ、それから隣が俺のパートナーの…。」
「ニーナ・アスレイです。今年で13歳です。えっと、私はニックとの離縁を断ったら、一緒に行けって言われて…来ました。」
 長身のニックとは対照的に、ニーナは一般的に言って年齢のわりに背が低い。立っていても座っていても、常にニックを見上げるために上向き加減だ。ちなみに二人とも整った容姿をしている。
 じゃあ、俺、と言ったのはエダ。
「エダ・コンダート、今年中に15になる。俺も離縁申請を拒否したクチだ。納得いかなくて、二人で逃げ出そうとしたけど無理だった。んで、こっちが脳波云々言われた本人。」
「メリサ・アイムです。15歳。同じ境遇の人がいてくれてちょっとホッとしてます。よろしく、お願いします。」
 絶望に打ちひしがれていたはずが、いつの間にかメリサは立ち直っていた。本人の言の通り、ホッとしているのだろう。
 メリサの自己紹介が終わると、スーザンがルトゥェラを促した。
「ルトゥェラ・テレウス。14歳。…さっきは…ごめんなさい。でも…今でも、開拓地なんて行きたくないわ…。到着するまでに帰る方法が見つからなかったら、…死ぬつもりよ。」
 だって、と自分がパートナーに捨てられたことを恨めしそうに語った。
「だって、彼、私のこと大好きだって言ったのよ!?他のパートナーなんて考えられないって…なのに、こんなことになった途端、君との縁を切っておかないと不名誉だから、とか言って…酷いわ!!」
 よしよし、とまた泣き出した彼女の背中を撫でて、スーザンが自己紹介をする。
「スーザン・カーター、この前16歳になったところ。私が最年長かしら。私は脳波で撥ねられた方。私のパートナーはそっちのモコよ。」
 しっかりしている所為で、実年齢より少し大人に見えるようだ。
「僕はモコです。モコ・ヤムラ。まだ13だけど、もうすぐ14になるよ。スーと離れるつもりはなかったから、ここにいる。宜しく。」
 彼は肌の色が濃く、他のメンバーとは人種の系統が違うように見えた。
「自己紹介は終わったな。…じゃあ、今度のテストの話でもするか?」
「何の為によ。」
 エダの冗談をピシッとスーザンが切り捨てた。
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