開拓史

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 出航時のGはさほど感じられなかった。高出力で上がっていくロケットとは違い、徐々にスピードを上げていくその宇宙船は、訓練なしで乗れるものだ。宇宙に出る技術は確立されているのだとエダは感心した風に語った。
「エダはそういうこと詳しいんだな。」
 もしかしたら彼が航路の変更を難なくこなしてくれるかもしれないという期待を込めて、ニックがそう言った。言われたエダは少々バツが悪そうに頭を掻く。
「…いや、好きな分野なのは違いないが、興味のあることだけ覚えてる程度だ。」
 そう返したところで船内にアナウンスが流れた。
「航行時の注意事項など、これからあなた方が守らなくてはならない決まりをお話しします。ブリッジに移動してください。」
 自動制御の船のブリッジに入るように指示されたことを驚きつつ、全員が席を立つ。
「俺たち、囚人なわけだろ?ブリッジに呼ばれるってどういうことだ?」
「さあ…。」
 行ってみると、そこは映画でも見たことのあるような空間だった。コンピュータの操作パネルがいくつもあり、それぞれに固定の椅子が付いている。これを操作すれば地球に帰ることもできるかもしれない。
 そんな思いに駆られてか、スーザンが一番近くの椅子に向かって一歩踏み出した。
「動いてはいけません。今から重要な禁止事項をお伝えします。あなた方の命にかかわることです。」
 少し考えて、彼女は他のメンバーの立ち位置まで下がる。
「どうぞ、おとなしくしてるから、話を続けて。」
「ご協力感謝します。ではまず、もっとも厳守すべきルール。それは、航路の変更を行ってはいけない、というものです。」
 コンピュータへのアクセスは他の部屋からもできるようになっているが、航路に関する部分にはもちろん鍵がかかっている。そのセキュリティーを破って、アクセスを試みたり、実際に入り込んだり、プログラムを書き換えようとすると、行為の内容に応じてペナルティが科されると言う。しかも、書き換えの実行が出来てしまった場合、船は緊急措置として、全ての機能を停止するらしい。
「全ての機能って…酸素供給とかも?」
「はい、その通りです。その後のアクセスは不可能ですので、復旧の可能性もありません。」
「…了解。」
「次に、動力室及び船外での活動について。」
 それも航路を変更させないためのルールだった。推進装置の向きを物理的に変える、ワープ装置や座標レーダーの破壊、その他にも、15、6の少年たちでは思いつかない方法まで事細かに禁止されていた。
「この船にはあらゆる場所に監視カメラが設置されています。動きだけでなく、体温、呼吸、心拍の監視もしていますので、こちらの判断で自室待機などの命令を下すことがあります。その場合は、きちんと従ってください。」
「アンタが捕まえに来るわけじゃねーんだろ?従わなかったらどうするんだ?」
「状況に応じた対応を取らせていただきます。」
「例えば?」
「設置された銃での麻酔弾や銃弾の発射、区画を閉鎖して空気を抜くなど。場合によっては船全体でそれを行います。」
 ちょっと待ってよ!とルトゥェラが声を上げた。
「誰か一人が従わないせいで、他の人も殺されちゃうこともあるの!?」
「警告を出し、それに従えば安全な区画に誘導します。」
 安堵なのか諦めなのか、数人が深く息を吐く。これが凶悪犯を運ぶ船だということを思い知らされる。従わないなら殺していい、ということなのだろう。
 そのほかにも、特定の場所での長時間の会話や共有スペースの独占、立てこもり行為も禁止されている。生活面では入浴の時間なども決められていた。
「お風呂が30分なんて信じられない!!それ越したらペナルティなの!?私、湯船に浸かってゆっくりしないと体の調子が良くないのよね!!」
「3か月間、あなた方の行動に問題がなければ、ルールは変更可能です。皆さんで話し合って、決めたルールを私に提示してください。」
 ルトゥェラとホログラムとのやり取りに、エダがにやりと笑って茶々を入れた。
「死にたいって騒いでたわりに、生きる気満々じゃねーか。」
「な…何よ!嫌なものは嫌なのよ!悪い!?」
「いや?大いに結構。生きて帰ってやろうぜ。」
「…わ…分かってるわよ。」
 本当に死にたいわけではないのは、本人を含め皆が分かっていることだ。
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