開拓史

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名もなき星



 8人はそれぞれ、唸ったり溜め息を吐いたり、それでも了解の返事をホロに返す。ルールを破って命を落とすなんてつまらないことになるのは願い下げだ。全員がそう思っていた。
 ルールの話が粗方終わったところで、セイゴが手を上げる。
「それで、行き先はどっちなんですか?」
 皆の顔が曇った。帰るつもりでいたから、行き先については意識の外に追いやっていたが、帰れない場合のことも考えておかなくてはならない。
 どっち、とは灼熱の星フレアか極寒の星コフィンか、と言う意味だ。凶悪犯の送り先として、開拓可能な場所だと半ば無理やりな理論で決められた流刑の地がその二つだった。どちらも人間が住むには適さない。船が行ったきり帰らない仕様なのはそのせいでもある。この船を住処にする以外、方法がないのだ。
「前、ニュースでフレアの開拓団は全滅したってやってた気がする…。」
「あー…そうだっけ。」
「じゃあ、コフィン?」
「あっちは鉱物資源が豊富だって話だからな。」
 では、とホロが前方の画面に座標を映し出した。
「行き先は183番目の星雲の東方に位置する恒星、プランタンの第5惑星です。星の名前はまだ付けられていません。到着は5年後と予定されています。」
 一同、顔を見合わせた。
「新しい星?…あー、今まで何人が行ってる?」
「開拓団が送られるのはこれが初めてです。」
「環境は?」
「動物はいるの?」
「知的生命体は?」
 一度に質問しないでください、と前置きをして、ホロが説明を始める。
 最近発見された星で、観測の結果、地球と環境が酷似していると思われること。生命体の存在を示唆する観測結果があること。知的生命体については不明だが、今のところそれを示す証拠は出ていないこと。
「これからあなた方には、カリキュラムが組まれます。それに沿って知識と技術を身に付けて、プランタン第5惑星を開拓することがあなた方に課せられた任務です。」
 一瞬の間を置いて、エダが「任務?」と呟いた。
「役じゃなくて、任務なのか?」
「はい。任務です。」

 最初にホロが出てきたときと同じ、ポン、という音が聞こえた。
「メッセージの開示が可能になりました。メッセージが1件、入っています。」
 重要、と区別されたそのメッセージを見るようにとホロが言い、若干の強制を感じて皆画面に見入る。もともと学校で反抗しないように訓練されている彼らは、基本的には従順だ。
 ポン、と言う音はお知らせ機能らしく、何かある度に鳴る仕組みらしい。またひとつ音が鳴って、メッセージが流れた。
「もう、落ち着いただろうか。突然のことで、さぞ驚いたと思う。」
 そう言ったのは、画面の中の男だった。30前後に見えるその男性は、研究者風の身なりをしていた。名はティアゴ・ニールセンという。
「理不尽な扱いに憤慨しているだろうが、どうか聴いてほしい。君たちの力が必要なんだ。」
 犯罪者として彼らを船に乗せたのは、この男らしい。脳波に問題があったというのも嘘で、そんなことをしたのは政府の目を掻い潜るためなのだと言った。
「我々の研究では、地球はあと10年で人が住める環境ではなくなる。地殻や核に異変が起きているんだ。しかし、政府は…いや、政府が信頼している学者が、我々の研究を一笑に付した。政府は、私の見解は悪戯に世間を恐怖に陥れるだけだと言って表に出すことも禁じた。でも、信じてくれ。10年後、人類は宇宙に避難するしかなくなる。そうなってから、逃げる場所を探していたのでは間に合わない。だから私はこの計画を実行したんだ。」
 どうか、頼む、とティアゴは頭を下げた。
「君たちの力で、人類の新天地を作ってくれ。」
 皆、驚くばかりで他の感情は湧いてこなかった。
 それから、とメッセージは続く。
「こちらで手を回して、新しいAIを入れてある。今相手をしているのは君たちの為に準備したAIだよ。規則も若干ゆるくしておいた。でも、どうしても変えられない部分が多くてね。かなり不便な思いをさせているだろう。不都合が生じたら彼女に相談してくれ。君たちのサポートをするよう、プログラムしてある。くれぐれも、命にかかわるペナルティだけは受けないように気を付けてくれ。」
 健闘を祈る、と締めくくられ、映像は途切れた。
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