開拓史
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デリカシーがないわね、彼。
そんなことを口の中でひとり呟いて、スーザンはルトゥェラの後ろを歩いた。
ルティ、なかなかいいじゃない、可愛くて。もうこれで決定でしょ。エダにあんなこと言われちゃ、流石にこれ以上呼び方で文句を言えないはずだし。…そうね、私のことはスーって呼んでね、ルティ、とか言ってみようかしら。
丁度立ち止まった彼女に声を掛けようとして、でも顔を見てスーザンはたじろいだ。
「ちょっと…付き合ってくれない?」
そう言ったルトゥェラは目に涙をためていた。
スーザンはただ頷いて、促されるまま彼女の自室に入る。やっぱり、傷ついてるのよね、あのエダの言いように。
数分沈黙が流れたあと、彼女は「何よアレ!」と言うなり吐き出すように続けた。
「分かってるわよ!私のパートナーも、私の名前を呼びたくなくて特別な呼び方にしようなんて言い出したって話でしょ!? 分かってるわよ!」
何よ、何よ、とただ繰り返す彼女にどう声を掛けたものか…。愚痴を聞いてもらいたいだけなのかもしれないが、あれはあんまりだと思っていたこともあり言葉を探した。
「彼があんな風なのはもう知ってたでしょ? ああいう人なのよ。デリカシーがない。ホント、呆れちゃうわよね。」
ルトゥェラは堪えるように口を噤んだ。どう受け取っただろう。敵だと見たのか、それとも味方と思ってくれたか。
「…そうよ、デリカシーの欠片もないわ。最初っから。人の気持ちなんてちっとも考えてないわよね。」
ああ、うまく悪口に乗ってくれた。これで少しは気が晴れるかしら。スーザンは安堵する。
「ええ、もともと喧嘩っ早いって自分で言ってたぐらいだし、思ったことを良く考えずに言葉や行動に出してるのよね。」
絶対そう、と強く頷くルトゥェラ。
二人は思いつく限りの不満を口に出して、全部エダが悪いことにして頷き合った。スーザンとしてはエダに申し訳ない気持ちもあったが、不満は前から持っていた本心だし、まあこんな時ぐらいいいだろうと思うことにした。
ひとしきり吐き出したら落ち着いたようで、ルトゥェラは軽く息をついてこんなことを言った。
「それにしても…、メリサはよくあんなのと付き合っていられるわよね。すごく仲がいいし。盲目の愛ってやつかしら。」
愛ね…。愛、…そうかしら?
スーザンが黙って考えに入ってしまったのを、彼女は訝し気に覗き込んだ。
「思わない?」
「んー、…あれ、本当に仲がいいと思う?」
「…いつもベッタリじゃない。」
「彼女、真面目でしょ? 決まりを守っているだけじゃないかしら。」
「…決まり?…つまり、マッチングで決まったパートナーだから、それに従って努力して仲良くしてるってこと?」
「少なくとも、私にはそう見えるわ。彼女の中に、ううん、エダの方にだって、愛なんてものはないんじゃないかしら。」
その言葉が意外過ぎたのか、ルトゥェラはキョトンとして黙った。
いいじゃない、どうでも、とスーザンは話を終わらせて、最初に言おうと思っていたことを付け加えた。
「ね、私のことはスーって呼んでね。ルティ。」