開拓史
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エダとメリサについてのスーザンの見解を聞いてから、ルトゥェラは度々二人を観察するようになった。
そして気付いたのは、メリサが頻繁にエダのことを怖がっているようだということ。
(メリサが自分の意見をあまり言わないのは、彼が怖いから?)
そう考えると彼女のことが不憫で、助けるというつもりはないものの、自由時間にはエダから引き離すようにお茶に誘ったりした。
「メリサってホント真面目よね。そんな風で息がつまらない?たまには誰かの悪口でも言ってみたら?スッキリするわよ?」
ルトゥェラの言葉にメリサが戸惑っていると、彼女はまた促す。
「大丈夫だって。監視プログラムだってだいぶ緩くなってるし、私、誰にも言わないから。」
そう言ってから付け足した。
「あ、私の悪口はとりあえずやめてね、他の人に聞いてもらって。私、それを受け止められるほどの器はないわ。」
「ううん、そんな、ルティへの不満なんてないよ?」
メリサが慌てて返事をする。
そうして、はにかんで笑った。
「…最近仲良くしてくれるし…嬉しい…。」
「あら…、そう?」
「うん。」
ニッコリ笑った顔はメリサの人柄を表している。しかし、本当に不満がないのか隠して笑っているだけなのか、ルトゥェラには判別がつかなかった。
ルトゥェラは二人きりになる度、同じような話を振ってメリサの本心を引き出そうと試みたが、彼女が率先して誰かの悪口を言うことはなかった。せいぜい、ルトゥェラの言葉に頷くぐらいである。そしてそれにも必ず擁護の言葉を添える。
「そんな感じだからとてもエダの悪口なんて言いそうにないわ。たとえ思ってたとしても。」
スーザンにそう報告して、ルトゥェラは溜め息を吐いた。
「言わせてどうするつもり?離縁でもさせる?」
「そんなつもりはないけど…。本心聞きたいと思わない?」
「そういうの、野次馬根性って言うのよ。やめなさいよ。」
「でも、もしかしたらホントに別れたいと思ってるかもしれないじゃない。」
スーザンは大きなため息を返す。
「あなたがそんなにメリサの心配をしているとは知らなかったわ。」
その言葉に揶揄の含みを感じ、ルトゥェラはプイっと顔をそむけた。
「スーこそ、そんなに冷たいとは思わなかった。ちょっとなんとかしてあげたいとか思わない?同じ女ならさ。」
「思わないわね。あの子の主体性の無さはあの子の問題よ。離縁したければ自分で言い出せばいい。それをしないのはあの子がそれを受け入れているってこと。周りが気に病むことじゃないわ。」
「…別に周りが救済すべきなんて思ってないけど、見ててイライラするんだもの。彼女、何を怖がってるのかしら。エダはパートナーに暴力振うことはなさそうだし。」
ほら、と言ってスーザンは肩をすぼめると次のカリキュラムの為に部屋を出て行く。
「いくら考えたって仕方ないってことよ。」
それ以降、ルトゥェラがメリサの本心を探ることはしなくなったが、一緒にお茶を飲む習慣は続いた。共同生活が始まった当初、性格の違いから一定の距離を保っていた二人の関係は、いつの間にか丁度良い友人の位置に収まったようだ。