開拓史

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出航



 その日、その部屋に連れてこられたのはエダとメリサだけではなかった。その全員が彼らと同年代で、同じような主張をして逃げ出そうと暴れたあとだった。皆同じように、自分の置かれた状況に打ちひしがれていた。
 ドアが開くその度、中にいる全員に銃口が向けられる。静かに涙を流すメリサをかばうようにエダは肩を抱いていた。
 人数が8人になったところで、外にいる兵士の声がスピーカーから聞こえてきた。
「お前たちには選択肢が与えられている。考える時間は10分。船に乗るか乗らないか、ここで決めろ。」
 乗らなくてもいいのか、と安堵の息が漏れる。しかし次の言葉を聞いてまた皆の表情が固まった。
「10分後、船のドアが閉まり、この部屋には毒ガスが注入される。ここに残った者は病死ということで処理する。」

「エダ…どうしよう…。」
「そんなん決まってるだろ。乗るぞ。生きてりゃ何とか出来るかもしれない。死んだら終わりだ。」
 メリサが頷くのと同時に、傍にいた長身の男が同意した。
「だよな。なんもしてないのに、なんで死ななきゃいけないんだよ。」
「帰ってこれると思う?ニック。」
「わかんねーよ。でも、死んだら帰れないじゃん。乗ろう、ニーナ。」
 寄り添うように立つニーナという少女は、愛らしい瞳でニックを見上げ頷いた。
 エダに続いて他のメンバーも船に乗り込む。しかし、一人の女が涙にくれて床にへたり込んでいた。
「ねえ、乗らないの?あなた。」
 キリッとして背筋の伸びた女性が、振り返って声を掛けると、残された一人が泣きじゃくった。
「乗ってどうするのよ!!行き先には凶悪犯ばかりなのよ!?何されるか分かったもんじゃないじゃない!!生きてたって意味ないわ!?私のパートナーは私のこと捨てたのよ!?」
 全員が同じ理由でここに送られたのだろう、とそれぞれが理解した。メリサも、エダが離縁申請の書類を渡されたことを思い出して、その段階で彼女のパートナーが見切りをつけたのだろうと想像していた。きっと心細いに違いないと。
「エダ…。」
 何とかしてあげてと言うつもりではなかったが、メリサが名を呼ぶより先にエダは泣きじゃくる女の方に近付いていき、腕を掴んだ。
「死んだってしょうがないだろうが!!立て!!」
「嫌よ!!私はここで死ぬの!!選択肢でしょ!?私の好きにさせてよ!!」
 乗れ、乗らない、の攻防を繰り返すうちに時間が迫っていた。
「エダ!急いで。もう時間が…。」
「私のことなんて放っておいてよ!!死にたいの!!あなたには関係ないでしょう!?」
 パシン、とエダが彼女の頬を叩いた。そして羽交い絞めにするように抱える。
「乗るんだよ!!俺たち全員で考えりゃ何とかなるかもしれないだろうが!!」
「やめて!!嫌よ!!私は死ぬの!!」
 引きずるエダの力に抵抗しようと足を踏ん張る。
「やばい、あと10秒。」
「早く!!」
 ニックと他に男二人がエダに駆け寄った。残った女たちで入口のハッチを押え、男たちは蹴られそうになりながら女の体を抱えて宇宙船に乗り込んだ。
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