開拓史

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 事故


 事の起こりは、艦内に響く警報だった。
 それぞれの場所で勉強をしていた全員が、アイの指示に従って集まる。レーザーバリアの故障だと姿を現したホログラムが言った。
「でも、修理は自動でやってるんじゃないの?」
「ある程度は。でも、修理できなくても代替えがある筈だろ?」
 アラートを鳴らしただけのことはあり、緊急性があるようで、アイは止めどなく一連の問題を説明した。
 まず、船体を宇宙の塵から守るためのレーザーバリアの端子が一つ壊れた。普通はその端子がはめ込まれた外壁が裏返って反対側にある予備の端子がバリアを張るようになっているのだが、そのギミックが動かなくなっているという。
 アイが調べた結果、外壁の隙間にゴミが挟まり、それが邪魔になっているようだ。
「外壁の掃除ロボットがあるでしょ?」
「それに不具合が見つかりました。毎日稼働はしていましたが、どうやら不具合の所為でゴミが取り切れていなかったようです。」
 とにかく今は挟まったゴミの除去が急務だと知らされ、誰が行くかと言う話になった。
「俺がやる。ニック、補助を頼む。」
 エダが手を上げて、皆が納得しかけたところでニックが首を横に振った。
「いや、俺がやる。いいだろ?折角初めて船外活動するんだから、傘持ってるだけなんてつまらないよ。」
「お前な。どっちがやったって同じだろ?」
「じゃあ、俺でいいじゃん。決まり。」
 文句を言いたげなエダを置いて、ニックは楽しそうに走り出した。慌ててエダが追いかける。皆が笑って二人を見送った。
「二人に任せておけば大丈夫だね。」
 セイゴがそう言って、モコが頷く。
「壊れた端子が収納されたら、修理は僕が引き受けるよ。」
「他に役割ある?」
「二人に危険がないように宙域の監視は必要かな。」
「じゃあ、それは私とアイでやるわ。他の人は勉強に戻っていいわよ。」
 スーザンの言葉にメリサとルトゥェラとニーナ、そしてセイゴが頷いた。



 二度目の招集は、警報ではなかった。アイのホログラムが事態を知らないメンバーのところに現れ、大変です、と人間のように慌てて言った。
 一番離れた場所にいたメリサが到着した時、その場は緊迫した空気に包まれていた。
 ニーナがメリサを呼んだ。
「手術に関する知識は!?」
「器具の名前を覚えた程度…。」
 そう答えながら、寝かされているニックを見ると、左胸から腹部にかけて、血に染まっていた。
「無理だ…無理だよ…。」
 そう言いながら、セイゴが後ずさった。
 それを追いすがるように腕をつかんで、エダが言う。
「手術ったって、殆どオートなんだろ!?やってくれ!」
「駄目だよ…心臓に近すぎる…機械任せには出来ない…。…でも…僕じゃあ…。」
 船外活動で、目的の作業は問題なく終わった。しかし、船内に戻ろうとしたところで、運悪くバリアの隙間から入り込んだ塵が船体を傷つけ、尖った破片がニックの胸に刺さってしまった。
「じゃあ、どうしろってんだ!?お前以外にそんな知識があるやつがいると思ってんのか!?」
 医学を専門的に履修しているのはセイゴだけだ。ニーナも習ってはいるが、他の分野にも時間を割いていることもあり、彼の知識にはまだ遠く及ばない。
「だって、まだ模擬体での練習もしたことないんだ…。本物の人間の体を切り開くなんて…。」
「やるしかないだろ!?」
 セイゴも解ってはいる。自分以外に手術をこなせる知識を持った人間はこの船にいない。
「…わ、わかった…。今から模擬体で練習して…。」
「セイゴ!!」
 掴んでいた腕を引き寄せ、エダがもう一方の腕も掴んで顔を近づける。
「ニックを見ろ!!コイツはお前が練習している時間、もつのか!?」
 エダから視線を外し、ニックに顔を向けた。見るまでもなく、既に状態は把握している。
「…も…もたない…。」
「じゃあ!一か八かでいい!!やれ!!やってくれ!!誰もお前を恨まない!!このまま放っておいて死なせるくらいならやれるだけやってくれ!!」
 セイゴの唇が小刻みに震えた。
「セイゴ。」
 落ち着いた声でニーナが言う。
「私が助手をします。お願い。手術をして。」
「…わ…分か…った…。」
 セイゴの答えを聞くや否や、ニーナがてきぱきと指示を出す。
「メリサは準備を手伝って。アイ!手術の準備中にセイゴにおさらいをさせて。ニックを手術台に!急いで!」
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