短編

□楽園
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 この『氷の城』に閉じ込められて一週間が経った。
 彼は幸い氷を溶かすための道具と燃料を持ち合わせていたし、携帯食も多少準備してあった。だから取り敢えず生き延びてはいる。
 とは言え、それもそろそろ限界になりそうだ。
「なんか気に障ることを言ったかな…。」
『ソレ』は彼に向かって「寒いね」と言った。別段寒がっている風でもないその言葉は、「寒いだろう?」と言っているように聞こえた。幾分かの侮蔑も含まれているように感じた彼は、素直に答える気にはならなかった。
「そうだな。でも、寒さも楽しめなくはない。」
 楽しめる程度の気温でないことは百も承知だ。はっきり言って強がりなのだが、相手の予想を外してやろうという企みと、相手を観察するために会話を引っかき回す目的もあった。
 が、答えた途端『ソレ』は目の前から忽然と消え、同時に彼の周りは氷の建造物になっていた。
 どこかで見たような城の中にぽつんと立っている自分に気付いた彼は、状況を把握するために城中を歩き回ったが、分かったのは出口がないということだけだった。

 各部屋の重そうな扉は、ご丁寧に開いた状態で固まっている。だから城の中は何処にでも行けたが、外に通じているであろう扉は堅く閉ざされていた。窓も然りだ。
(大体、アレは何なんだよ。この星に生き物は居ないんじゃ無かったのか?)
 そう思ってから、アレは生き物なのか、という疑問が浮かんできた。
 生き物というよりは幽霊のように見えた。霊体の何か。
 最初は彼にそっくりだった。鏡の中の自分が現れたのかと驚いていると、ソレは少女のような姿になった。
「…アレが幽霊ってことはその元の生き物が居たはずで…。」
 幽霊なんてものを信じたわけではないが、ごく一般的な概念で言えば、という思考だ。
「…腹が…減ったな…」
 救助が見込めないのは疾うに分かっている。何せ、今この星で生きている人間は、彼一人なのだから。
 せめて船まで戻れれば、そうも思ったが、それも希望にすらならない。
「戻ってもなァ…。『奴ら』、俺をどう扱うか…。」




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