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□映る片鱗
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ルーズたちは久しぶりに下層域に来ていた。
今日はレベル上げではなくクエストが目的だ。
「まだ誰もクリアしていないんでしょ?」
「ああ、そうらしい。」
サンに聞かれてルーズは答えた。
ふん、とナナが唸る。
「敵が強いわけじゃねーのに、なんでクリアできないんだよ。」
攻略が進んだ今、かなりレベルの高いプレイヤーもいるというのに、下層域に未クリアのクエストが残されているのは異例だ。情報によるとそのクエストに出現するモンスターはその層に見合ったもので、ハイレベルのプレイヤーが手こずるような強いモンスターは確認されていない。
「時間制限があるからなぁ…。」
レイシーが難しい顔をした。
挑戦したプレイヤーたちは手を変え品を変え、散々知恵を絞ってきた。それでもどのやり方にも欠点が見つかり、八方ふさがりらしい。
「やっぱ足の速さはかなり影響すると思うぞ?」
クエストは岩山の中腹にある洞穴に住む親子の依頼をこなすものだ。
その洞穴の前で立ち止まり、事前確認。
「これまで確認されている依頼は3回まで。それぞれのクエストアイテムのありかは地図で見せたとおり。モンスターを足止めする役割と、クエストを進行させる役割とを分けるやり方が有力だとされてたが、パーティーメンバー全員が洞穴にそろってないとクエストが進まないことが分かった。このクエストのモンスターに時間停止や石化のアイテムは効かない。モンスターを蹴散らせつつ進むというぐらいしか方法がないが、これまでの挑戦者はあえなく時間切れ、だとさ。」
恐らく前線を行く攻略組で組まれたパーティーならクリアできるだろう。しかし、この下層の単純なクエストでは経験値やレアアイテムに期待できない。攻略組にとっては何の魅力もないのだ。
「まあ、ダメ元だな。ナナもサンもスピードのポイント上げただろ。マラソンする気分でやろうぜ。」
げ、とナナが舌を出した。
「マラソンなんか大っ嫌いだよ。」
それを聞いてルーズは笑う。
「現実と違って疲れないじゃないか。」
「気分だよ。走ってるって気分がヤなんだ。」
ルーズはナナの背中をポンポンと叩いて促した。
「帰りは俺とレイシーで道を開く。お前たちがここに到着する頃には追いつける筈だ。」
洞穴の中には母親と幼児がいた。クエストは母親の頼みごとで始まる。子供がなくしたものを探してきてほしいというものだ。
一つをクリアするとまだ無くしたものがある、と続けて頼まれる。制限時間はその一回ごとに設定されていて、時間内に洞窟に戻って母親に話しかけるとクリアできる。
三回目のコースが厄介らしく、届ける寸前でタイムアップ、というパーティーが続出らしい。
「要領は同じだ!行け!!」
足の速いルーズとレイシーがモンスター出没ポイントまで行き、敵を蹴散らす。ナナとサンが駆け付けたところで一番スピードのあるレイシーがクエストアイテムを取りに行く、といった具合だ。
二回目までは余裕でクリアできた。問題の三回目はクエストアイテムの場所まで少々遠く、モンスター出没ポイントも数か所ある。
「次行くぞ!レイシー!」
「おうっ!」
数匹を残した状態で吹き飛ばしのスキルを使い、次へ急ぐ。そろそろナナとサンが次のモンスターの所に辿り着く頃だ。タイミングを上手く計らないとタイムロスになってしまう。
最後のモンスター出没ポイントでレイシーがアイテムを取りに行くと、ルーズがあとの二人に指示を出した。
「戻れ!」
「!?いいのかよ!」
「問題ない。この数なら一人でくい止められる!」
「わかった!次で待ってるぞ!!」
全てを倒す必要はない。レイシーが駆け抜けるのを待つだけだ。
「二人は!?」
「次で待ってる!行け!」
レイシーはターゲットにされないうちに通り抜け、振り向いて呼んだ。
「もういいぞ、ルーズ!!早く!!」
「おう!」
次の場所でナナとサンはモンスターに囲まれていた。
「行け!攻撃喰らっても大したことはない!」
二人が離脱すると、すぐにレイシーがモンスターを弾き飛ばした。
「行くぞ!アイツら追い越して次も蹴散らそう!」
「よっしゃ!」
とにかく全員が時間内に洞穴に戻らなくてはいけないのだ。足の遅い二人は闘っている余裕はない。