虹を見上げて

□あれから
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1.
 エディンと一緒に旅したあの冒険。あれから9年が経ち、私は一応大人になった。

 エディンとは、私が15の時にもう一度旅をした。その頃、彼は勇者として度々城に呼び出されていて、女王様はなんだかんだと便利にエディンを使っていたようだった。だから、その旅も小間使いの一つのようなものだったんだけど、そこから思わぬ展開になって…。って説明すると長くなるから、やめておこう。
 その事件が隣国によるものだと発覚してすぐ、戦争が起こった。と言っても小競り合い程度で終わったけど。あの国は聖魔を信仰している。魔族を呼び出して魔法を使うのだそう。でも、本来魔族は人間には従わないものだから、使う人間がその力に飲まれて悪魔化して自滅する。あの戦争も向こうの自滅で終わった。
 そこでフェリエが引っ張り出された。
 フェリエはグアンドの精霊封印問題を解決したせいで、教会の中で特別視されている。なんでも、あの時に彼女が見た幻覚で出会った老婆が、人類の始祖、聖母メリサではないかと言われているらしい。フェリエは聖母の加護を受けている、というのが教会内部で定説になってしまった。だから…。


 二年前のある日、フェリエは突然やってきた。いつもなら事前に手紙をよこすのに、その時はホントに突然だった。
 そして私と二人きりになって言うことには。
「わたくしはこれから、エディンに結婚を申し込みます。ですから、キャム、その前に、あなたが先に彼に結婚を申し込んでください。」
 何を言いだしたのかさっぱりだった。勿論私だって、エディンが好きだった。でも、おかしい、フェリエらしくない。
 どういうことかと問い詰めると、彼女は目を潤ませた。
「わたくしは、きっとエディンを不幸にしてしまいます。だから、身を引くべきなのだと思います。でも、不安でたまらないのです。エディンに傍にいてほしい。わたくしと共にあってほしい。」
 彼女が思い悩む理由は、本教会からの辞令だった。
 聖魔信仰の国、あの隣国に、派遣されるのだと彼女は言った。
 歴史的に見ても聖魔信仰は指導者が悪魔化して自滅するというのを繰り返していて、良い信仰とは思えない。戦争を仕掛けてくるのだって、その指導者がおかしくなり始めたサインのようなものだ。だから、教会は、あの国に精霊信仰を広めようとしているらしい。
 でも、それはうまくいかなかった。
 あの国の人間は精霊魔法を下等なものとして嫌っている。もともと、この国のことを見下しているところがあって、派遣された僧侶は皆、挫折して帰ってくるそうだ。
 だから、フェリエが選ばれた。聖母メリサの加護を得ている彼女なら、成し遂げられるだろう、と。
 なんて勝手な!と怒ったら、仕方ないことなのだとフェリエはうつむいた。
「誰かがやらなくてはなりません。先の戦争はすぐに終わりましたが、もっと強大な力を持った指導者が立ってしまうと、精霊魔法では太刀打ちできないのです。」
 魔族は精霊を食べるのだそうだ。もともと、魔族に精霊魔法は効かない。何度戦争が起こってもこの国が亡ばなかったのは、そうなる前にあちらが自滅するからだ。でももし、自滅しない指導者が現れたら?
「聖魔信仰をなくさなくては、真の平和は訪れません。だから、わたくしは…。」
 行きます、とそこだけは決意の目で言っていた。
「わたくしはエディンを攫って行こうとしているのです。だから、キャム。貴女が彼をこの村に繋ぎとめてください。お願いします。」
 そう言って深々と頭を下げた。
「わかった。今から、エディンと話してくる。フェリエはここで待ってて。」





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