虹を見上げて

□荒れた地で
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 エイランさんの村、ヒシュエナに着くと私たちは畑に足を向けた。状態を見ようと思ったんだけど、畑に行く前から酷い有様なのが見て取れた。
 畑の作物はもう跡形もない状態で、それどころか村を取り囲む木々さえ枯れ始めている。
「…こんな…。」
 分かっていたつもりだった。この村の人たちだって素人じゃない。長く農業をやってきた人たちが、粘って粘って、それでも駄目だった。
「…帰ろう…。」
 お父さんはそう呟いた。何かできるなんて思い上がりだった、わざわざ見に来たのは失礼なことだった、と肩を落とした。
「うん…。」
 何もできないと判断を下したものの、そのまま背を向ける気にもなれず二人で立ち尽くしていると、後ろから声が掛かる。
「師匠!?お嬢さんも!」
 もう発ったものだと思っていたエイランさんが、そこには居た。
 他の村人はもう出て行ったけど、彼は諦めきれずに残っていたらしい。
「僕も明日発つ予定なんです。」
 そう言いながら招き入れてくれた家には、彼の両親もまだ残っていた。
「息子の道楽に付き合っていたんですよ。」
と彼の父親は優しげに言い、母親もニッコリ笑って頷く。
 お互いぺこぺこと頭を下げ合って挨拶をして、私たちは勧められた椅子に座った。
「もう何も残っていませんが、お茶でもどうぞ。」
「すみません。お気遣いいただいて…。」
 荷造りを済ませた家の中はがらんとしていた。もの悲しさに皆黙り込んで、お茶を飲んだ。
 なんだかとても悔しくて、私は言った。
「あのさ、私、実験してみたいんだけど。」
「実験?」
「うん、ダメなのは分かったけど、原因が分かれば、ほら、うちの村の予防にだってなるでしょ?だから…あの、畑を少し貸していただけませんか?」
 もう捨てる村だから自由に使っていいけど、とおばさんが戸惑いがちに言って、夫と息子の顔を見る。
 エイランさんも同じような顔をしてから私の方を向いた。
「どんなことをやるんです?お嬢さん。」
「え?…っと…ちょっとね、魔法でバリア張るとか、思い付きで…。だから、ただの実験。」
 まだ何も考えていなかったから、いい加減に口から出まかせを言う。
 気にしないで、と言ったら彼は首を横に振った。
「僕にも付き合わせてください。」
 皆、本当は村を捨てたくなんてないんです、だから僕は最後まで足掻いたんです、と。
「まだ足掻く方法があるなら、付き合わせてください。」
「そうね。私も付き合うわ。息子の道楽が少し伸びただけですもの。」
「そうだな。」
 三人でそんなことを言うから、今度は私が戸惑うことになった。



「では、娘のことをよろしくお願いします。しつけが成っていませんが、何か失礼がありましたら遠慮なく叱ってやってください。」
 お父さんは自分の畑のことがあるから、次の日に帰ることになった。深々とお辞儀をしてそう言った。
「ご心配なく。事が終わりましたら、ここを発つ足でそちらの村にお送りしますので。」
 私を送り届ける約束までしてくれた一家にもう一度お辞儀をして去っていくお父さんの背中を見送ってから、私もしっかりとお辞儀をする。
「よろしくお願いします。食料調達は任せてください。狩りなら得意ですから。」
 グッと拳を握って見せた私に、おばさんが「まあ、頼もしい。」と柔らかく笑った。







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