氷菓
□幕間劇
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やってきました。隣町のプール施設。市営プールのような小さなやつではなく、屋内に建てられた、スライダーやらなんやらのアトラクションが目白押しな大きなプールだ。
「しかし遅い」
家に取りに戻るという選択肢を捨て、レンタルの水着を纏ってどれくらいか。おそらく五分はとうに過ぎている。
女子は準備に時間がかかるとよく言うが、本当にそのようだ。
いや、少し待て。
「もしかして…ナンパ」
あるいは迷子。…ないな。あの二人が迷子なんてそれこそ笑い物だ。
だとしたら、やっぱりナンパか。冬実も供恵さんは美人だ。あと胸が大きい。十二分にありえる。
「探してみるか…」
きゃあきゃあ。わあわあ。そんな楽しそうな声と水の音を背に、脱衣場の方に足を進めた。
右を見たり左を見たり。たまに後ろに振り返ったりしながら歩くと男四人の後ろ姿。髪の毛は染めているのか金髪が目立つ。中には褐色肌の男もいる。
「連れがいる。通せ」
「デート中なわけよ。だから、邪魔」
「じゃあ混ぜてよー」
………本当にいるんだね、ナンパ。二次元の世界だけかと思っていたよ。
「警備員でも呼ぼうか」
「そんなことしないでさ、ね」
男たちに近づいて、咳払い。案の定、こっちを向いてくれた。
「真琴…」
冬実と目を合わせてから、睨む男に笑う。
「自分の連れだから、ごめんよ」
俺の笑みが気に食わなかったのだろう。舌打ちされて、囲まれた。
「お前一人かよ」
「まあ」
「男一人で女二人とか、チャラチャラしてんじゃねぇよ」
チャラチャラしてるのはどっちだか。
「じゃあ俺たちも混ぜてくれよ」
「のーせんきゅー」
テメェ、そんな怒号が響いた。
ごめん。自分のこの性格に問題があるのは分かるけど直らないよ。でも、君たちにも問題はあるよね。モラルだよモラル。
「調子乗ってんじゃ」
「他の皆さんに迷惑がかかるのでお静かに」
言い切る前に、前にいた男の股間に蹴りをいれた。いわゆる金的。
「ゔっ」
「っ、おい!」
「静かに出来なきゃ…やっちゃうぞ」
瞬間、男三人は駆け足でもう一人は内股でどこかへ行ってしまった。
「走ると転ぶぞー」
見送って、冬実と供恵さんにいつもの笑みを見せる。二人の顔がひきつっていた。
「変なことされてない?」
「大丈夫よ。ありがとう真琴」
「さすが私の恋人候補」
二人の姿を改めて確認する。
冬実は黒のビキニ。供恵さんはブラウン系のビキニ。出るとこ出て締まるとこ締まってる。
「目つきがいやらしい」
「ご馳走様です」
「お粗末様です」
「真琴も先輩も…」
人溜まりの方に行けば二人は注目の的になるのではなかろうか。
「あ。助けてくれたご褒美よ」
供恵さんが俺の右手をとって、誘導する。そのさきは。
「っっ!」
「………メロン」
冬実の胸だった。
今日は楽しめそうだ。そう思ったと同時に、ボディーブローを打ち込まれました。
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