ハイスクールD×D
□life,01
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「キミに新たな任を通達する」
「内容は、アーシア・アルジェントを保護すること。尚、対象保護の際、敵勢力と抗戦を開始した場合は全力をもってこれを排除しろ」
「………了解」
人間の人間による人間のためのこの力。
力は何か。敵を倒すため。何かを守るため。復讐を果たすため。全てがイコールで、全てが「彼」の存在理由。
「頼んだよ。人類のために」
そして、今一度人類が原初であることを知らしめるために。
新たな任務を受け渡された後、"彼"は自分に与えられた部屋に足を運んだ。任地が他国であることと荷造りの準備をするための至って安易なものだ。
「………はぁ」
部屋の扉をくぐり、ふと周りを見渡した後に彼はすぐにため息を吐いた。どこにでも見受けられる一人部屋。その中の彼が使用しているベッドに目をやって、自然と眉間を指で揉む。
「おい」
低い声。それが静かな憤りを感じさせる。
「………ん、にゃ…ぁ」
素っ裸で寝ている女。掛けていたシーツは乱れ、女の口元からは涎が垂れている。見た目は美人と言われる部類だが、こうなると残念美人と言ったほうが正しい。
「おい、起きろ。…起きろ」
「…………」
なんとも寝心地の良さそうな寝息。
線の細い顔と張りのある肌。そして男性成人の手のひらでも収まりきらない双丘。豊かな胸が大いに目立ち、主張をしていた。
「…うぁん、アランのえっち……」
色気を含んだ寝言が男の眉をぴくりと動かした。寝言ながら彼の名前を呟く女。その彼女が眠るベッドを蹴飛ばして見せる。
ガツンと大きな音を立て、比例するように揺れ動いたベッド。途端に女は転がり落ちた。
「んにゃ!?」
「これで目が覚めたか…?」
「にゃぁ…こんな幼気な美女を荒々しく起こすなんて廃ってる…」
「どこが幼気だ。どこが。性欲の化身みたいなくせしやがって」
身体に付いた埃を叩く仕草をする女。頭部に二つ乗っている三角型の何かピクピク動く。さらには臀部、尻の方から立ち上る黒い線。それらが耳と尻尾だと彼が認識するのに時間は必要はない。
「性欲の化身て…。いくら欲望に忠実な悪魔でもそう言われると侵害。私はアラン限定でエロいだけっ!」
「さて、支度をするか」
「無視するにゃぁー!」
どや顔で言い放ったもののアランと呼ばれた男はなんのその。背中を向けて荷物の整理をし始めた。
奇声を上げ背中に引っ付かれても気にはしていない。これが冷めてると言われる由縁だろう。
「ねぇ…次はどこ行って何すればいいの」
耳元で吐息のように静かにつぶやく。
滑らかな肢体と自己主張する大きな胸を押し付ける様は、まさに娼婦のそれと同じ。しかし、金銭と対価に身体を売る女性たちより一人の男に操を立てて、ひたすらに愛を囁く女の方が扱いは厄介で難しい。
キブアンドテイク。それがこの世の常なら二人の関係もそうなのだ。自分たちの都合のために今、ここにいる。
「日本。そこでアーシア・アルジェントという少女を見つけ出し、保護することだ」
「アーシア・アルジェント…。あの『魔女』って言われてる?」
教会に仕え、慈悲深いとされる神、そして天使へ祈りを捧げる修道女。シスター。そんなシスターが傷付いていた異端、悪魔を癒やした。それがいけなかった。
そのシスターはただ優しいだけだったのに。聖母のような温かな微笑みを悪魔に魅せただけなのに。
教会は捨てた。シスターを。アーシアを。異端と蔑み、魔女と罵倒した。
何がいけなかった。シスターが悪魔を癒やしてはいけなかったからか。神は、天使は全てのものに慈悲をかけるのではないのか。悪魔だからと、"悪"だからかそれを拒絶していいのか。
それなら奴らは、
「天人を語る資格はない。クズだ」
彼らはいつも何もしない。地上の人間をただ見下げるだけだ。
祈っても恋い焦がれても彼らは悪をゴミを呼び、人を糧とする。
「俺は奴らを否定する」
それは天界の住人にとって必殺を意味する言霊。祈られ、信じられることで彼らは存在するのだから、否定をすれば消えるだけ。跡形もなく、まさしく塵のように。
「また怖い顔してるにゃ」
「…………」
「ホント、悪魔の才能あるわよアラン」
「反吐が出る誉め言葉ありがとう。それよりお前も支度しろ。そして服を着ろ。離れろ」
「はぁい、お母さん」
確かにあれこれ指図して身の回りの世話もしているとまるで母親のよう。自覚があるのか、彼は無言だった。
「日本か。…白音元気にしてるかな」
それさえも無言で突き返した。