ハイスクールD×D
□life,03
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「朱乃…、姫島朱乃か」
「はい。母と共にあなたに助けられた、朱乃です」
朱乃と名乗った少女の髪がふわりと揺れる。
彼女が身につけている巫女装束と顔立ちは、男…アラン・リュシドールにとって見覚えがあるものだった。
約十年前。彼が日本に訪れた時。
「そこにいるということはやはり悪魔になったんだな」
「…はい」
どこか申し訳無さそうに見えるのは伏し目があるのだろう。しかし彼は、そうかとだけしか返さなかった。それが余計に朱乃を不安にさせた。
「感動の再会中に悪いのだけど、いいかしら?」
「リアス…」
「ごめんなさい。でも今は、お願い。リュシドールさんと言ったかしら。朱乃との様子を見ると話し合いは可能と思っていいかしら」
優雅に佇むもう一人の少女はアランの後ろそびえる教会を見やる。彼女たち二人もあちらに用があるのは一目瞭然。
アランは懐にそっと腕を忍ばせる。
「アランさん…っ」
「………」
身構える少女を余所に腕は抜かれた。手に掴んでいたのは、無線機だった。
「応答してくれ」
『はいはい黒歌さんにゃー。て実は陽気に言ってる場合じゃないのよね』
「なんだと」
『それがさ、どうやら堕天使たちはアーシア・アルジェント自体には何の興味もないらしい。本当の目的ていうのが』
無線機から飛んでくる声に紛れて、少年らしき声の叫びが聞こえる。
ザッとノイズが一間を過ぎた。
『あいつらの目的は、アーシアから神器「聖母の微笑」を取り出し、自分の物にすること』
すなわち。神器使いが神器を奪われるとどうなるか。保有者の意思に関係なく、無理矢理にでも取り出せば、死ぬ。
「…くそったれ」
「アランさん?」
寡黙そうな彼からは思いもしなかった言葉が吐き出された。
この手のタイプは常に冷静沈着で周りを統率するにはうってつけ、頭が回る。そう思っていた。
しかし、どうやら感情的になりやすいのか、リアスは値踏みの眼差しで見つめている。
『こっちは白音ちゃんに見つかってやりづらい状況にゃ。出来れば手を貸してほしい』
「すぐいく」
言葉より早くアランは駆け出していた。後ろから付いて来る気配を感じるも、ただ前を見る。
廃れた教会。丁寧に扉から入っていく義理はない。壁を、破壊する。右腕には神器。
「どうにもらしくない」
独り愚痴るそれは自身への叱咤。
難しい任務じゃなかった。その気になればすぐに行動に移せた。
「………く」
自然と後ろを気にしていた。
朱乃。少女たった一人にペースを乱されたというのか。いや、その通りだった。昔助けた少女。"誰か"に似ている少女。
なんとも女々しいことかと自嘲する。過去を引きずり、その清算をしようと躍起になっている。
「派手に暴れやがって」
教会の中は障害物、倒れたエクソシストや散らかった物で足の踏み場が限られていた。奥に行くための道はグレモリー眷属、リアスの下僕に塞がれている。咄嗟に赤い籠手をつけた少年のわきをすり抜けた。
「っ」
「な、なんだ!?」
「あなたはっ?」
「後にしろ」
先程の少年と同い年であろうもう一人の少年の肩に手を置き飛び越える。
突然現れたアランに二人は驚愕をせずにはいられない。事態が緊急であるため一層に。
「あそこか…」
「お、おいあんた!」
祭壇があったはずの所に地下階段を見つけた。今度こそ後ろの気配を完全に無視して、階段を下っていった。
道なりに行けば見知った着物の女がいる。何か話をしているようだ。
「ごめんね白音ちゃん。何度も言うけど、話は後にしてほしいにゃ」
「いや…です。姉様が今何をしているのか、なんで"あんなこと"をしたのか聞きたいことが山ほどあるんです…っ」
「にゃ…だから……ん、アラン」
上より道が狭いため、仕方なくアランは立ち止まる。
彼の相方の黒歌が対峙するのは、彼女とはまるで正反対の白い少女。小柄で髪の白い娘、塔城小猫。黒歌の、実の妹だ。
アランと黒歌。この二人にとってこの街に住む者には因縁が、共通にもあったのだった。