氷菓

□氷菓篇二章
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音楽室で第六感-シックスセンス-なるものが目覚めたあの日からどれくらい経ったか。正直、数えるのがめんどくさい。まあ、あれ以来無闇に音楽室に行くことはしていない。もちろん冬実も。
幽霊の有無に若干傾きが起きた時から奇妙なことはなにもない。少し安心。
そんなことより、我が古典部に新入部員が一人増えた。一年生の女子だ。


「どうも先輩。伊原摩耶花です」

「はいはいどーも。高梨真琴だよ」


童顔で女子高生にしてはまた低身長。失礼だけど小学生でも通用するのではないかな。ま、可愛い部類には当然入ってるけど。
しかしこれで女子が二人だね。今まで男三女一だったから、千反田嬢も同性の相手ができて、過ごしやすくなると思う。


「高梨真琴……」

「うん? なにか?」

「あ、いえ…漫研の部長から名前を聞いたことがあって」


苦笑気味にそう返された。
マンケン…、ああ漫画研究会か。そこの部長というと湯浅尚子だ。一体、彼女はどういう話をしたのか、わたし、気になります。なんて。悪口を言う仲ではない。むしろ逆。自分で言うのもなんだけど数少ない友人だ。…あとで本人に聞いてみればいいか。


「それで、伊原ちゃんは古典部にどうして?」

「い、伊原…ちゃん…?」


また話が脱線してしまった。


「親しみを込めて。やっぱり嫌?」

「いえ、それでいいです」

「………伊原ちゃん…ぷっ」


壷に入ったらしい、あのホータローくんがおかしそうに笑っている。おかけでスネを蹴られたけど。


「話戻すけど、古典部にどうして?」

「折木さんが活躍したんです」

「千反田、答えになっとらんぞ。里志が古典部員だからですよ」

「わけがわからないよ」


二人して違ってるからどちらが本命なのか。
それにしても、里志くんがいるというのはアレかい?好きだなんだかな。だとしたら、いいね青春だねえ羨ましい限り。


「先輩の言う通りだよ二人ともそれじゃ分からない。あのですね、カンヤ祭に向けて代々古典部で文集を作るのは知っていますか」


頷いてみせる。


「そのバックナンバーを探しに、この前図書室に二人が来たんです。僕もちょうど図書室にいたし、摩耶花は図書委員で」


バックナンバーとは…いつの間にそんなことを。部長は千反田嬢なんだけど先輩としての示しがないねこりゃ。
冬実に言えばため息吐かれるわ。下手をすれば説教。彼女怖いからそれは勘弁したい。


「それで、僕と摩耶花が話題にしてた『本』について尋ねたんです」

なんでも、本のタイトルは『神山高校五十年の歩み』。分厚く大きい、今時の若者が読むような本ではないらしい。なのに毎週の金曜昼休みから放課後にかけての同じ時間に借り出され、その日の内に返却される。というもの。
どこかのお嬢様みたいな気になりますっではないけど十分に近いものがあった。


「ホータローの推理、合同授業の美術に使われている…が見事的中しました」

「千反田の並々ならぬ嗅覚があって。それでです」


ホーと感心した。
折木奉太郎。彼の推理力は目を見張るものがあるやもしれないね。


「で、結局伊原ちゃんはなんで?」

「福ちゃんがいたからです。漫研とは掛け持ちになりましたけど」


またまた感心。もしや二人は付き合って?


「ませんよ。里志が受け流してるから」

「それはまた。しかし心を読むとは…」

「俺は里志じゃない」


どういう意味か。


「ん…そうだ、バックナンバーはどうだった」


それが図書室に向かった理由なのだ。自分としてもバックナンバーは興味がある。


「ありませんでした…」

「バックナンバーが、ない?」


地学講義室には無く、図書室もそう。バックナンバーがないなんて、それこそないだろう。何のためのバックナンバーか。
今日はそんなところで終いとなった。
…帰ったら聞いてみるか。




「久しぶりです。実は聞きたいことがありましてね」

《―――――!》


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