Scream of Under Pressure

□Episodio 01
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歌蓮の目論見どおり、10分前に着いたカフェテリアの入り口に程近いカウンターに着いて、注文したエスプレッソを啜りながら、誰か来店すれば腕時計を確認するという作業をしながら入り口の方を怪しまれない程度に見ていた。
暫くしてカフェテリアに入ってきた群を抜いて背の高い男は、歌蓮のすぐ隣のカウンターに着いて正面のバリスターに注文をした。

「チョッコラータ・カルダ。ソイ・ミルクでブラウンシュガーを2杯とハチミツをひと垂らし、キャラメルソースたっぷりで生クリームをのせてくれ」

冬はもう少し先だというのに、頭に響きそうな甘ったるいココアを頼むなんて。歌蓮は不思議に思いながらふと時計に目を落とした。10時ぴったり。

“暗殺チームのリーダーは極度の甘党だからそれで見極めろ”

このひとが、リゾット・ネエロ。
頭の悪そうな元上司のフレーズが頭をよぎり、思いついたときにはポケットからコインを出して近くにいたバリスターへ注文していた。

「すみません、こちらの彼と同じものをください」

バリスターは先ほどの歌蓮と同じことを思ったのか不思議そうに眉を(ひそ)めながら頷いて準備に取り掛かった。
そして隣で同じくして聞いていた背の高い男―おそらくリゾットは、驚いたような顔をしてこちらを見ている。その真っ黒で大きな瞳が歌蓮を写した。

「こんにちわ、ネエロさん?」
「ああ、お前が音無歌蓮だな」
「そうです。これから“お世話”になると思いますが、よろしくお願いしますね」

少し含みを持たせた言い方をする歌蓮にリゾットは答えるわけでもなくにやりと口角を上げ、カウンターに置かれていたチョッコラータ・カルダを一口啜って一言「一服してからでも遅くないさ」と答えたっきりチョッコラータ・カルダに夢中だ。
歌蓮の目の前にも同じものが置かれたので、それに倣ってカップに口をつける。
一口飲んだところで口内を縦横無尽に駆け巡る生クリームの甘みと、キャラメル、ハチミツ、ブラウンシュガーの舌を刺すような苦味、チョコレートのむせ返るような強い香りがソイ・ミルクの風味をどこかへ消し去っている。
どろりとした砂糖の液体をそれとなくカウンターの奥へ押しやり、エスプレッソを一気に飲み干した。この時のエスプレッソは最高に美味しく感じた。

暫くしてリゾットがカップを空けると店を離れ、駅近くに停車している車―歌蓮は助手席に乗るよう言われた―に乗り込んで暗殺チームのセーフハウスへと車は進んでいった。



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