Scream of Under Pressure

□Episodio 01
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――1週間後、暗殺チームへの異動を命ずる。


1998年、すっかりと過ごしやすい秋に差し掛かった頃。音無歌蓮は上司に異動命令を突きつけられた。
それは暗に厄介払いを含んでいて、ぼんやりとそれを聞いていた歌蓮は眉をひそめながらも頷く他はなかった。

上司のもったいぶったような話し方にますます眉間のしわは深くなるが、黙って話を噛み砕いてみれば、暗殺チームのリーダー―上司よりもうんと若いがその道のプロだという―が車で迎えに来るから、紙に書かれた場所で落ち合うようにという事。期日である1週間後までに身の回りの整理をするようにという事。6日後にまたここへ来ること。というたった3つの内容だった。
それだけの為に1時間を費やすなんて。歌蓮は深いため息を飲み込むように頷いて職場を後にした。




そして怒涛の1週間というものは案外あっという間に過ぎてしまい、とんとん拍子に事が進んでいくのを、歌蓮は自分の事ながらどこか他人事のように感じていた。
いざ当日を迎えると、どこからかフツフツとした不安が湧き上がってくる…少しでも不安を紛らわせようと、前日に上司から受け取った待ち合わせを示した小さい紙切れをポケットから取り出した。


“ネアポリス・セントラル・ステーションから、コルソ・ウンベルト1世通り右側 カフェテリア ドルチェ・ソスタに午前10時 R.N”


さらさらと流れるような非常に読みやすい筆跡を見つめる。何度読んでもその文字が変わることはない。それにしてもR.N――リゾット・ネエロとは一体どんな人物なんだろうか…。
そして―元―上司のもったいぶったセリフから引き出したキーワードも思い浮かべる。

「10時ちょうどに現れた人物と同じものを注文すること」「暗殺チームのリーダーは極度の甘党だからそれで見極めろ」

たったこれだけに30分も費やした――ほとんどは歌蓮がチームを抜けることがどれほど嬉しいかを嫌味ったらしく語った元上司に向けて舌打ちをする。
チラリと腕時計を確認すると9時40分。今から家を出ても余裕を持って到着できる。歌蓮はそう思い、すっかり殺風景になってしまった部屋を見渡すと玄関に準備していたボストンバッグと古ぼけたアコースティックギターをケースに入れることなく掴んで、二度と戻ることの無い小さなアパートを出て行った。



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