夢追い少女は星屑を掬う

□Episode 07
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挑発するかのようにフランス人の青年が鼻で笑い、星型のニンジンを首筋に当てる。するとそれを合図に深皿になみなみと入ったおかゆが泡立ち、ギラリとしたものが深皿から飛び出した。

「ジョースターさん、危ない!」

いち早く危険を察知したアヴドゥルが叫ぶ。
深皿から飛び出した“何か”はジョセフ目掛けて突きを繰り出した。しかしジョセフは老齢とは思えないほど機敏な動きで受け止め、義手はガチンと金属音を鳴らした。それは銀色に輝く刺突剣だった。

アヴドゥルがテーブルをひっくり返して隙を作り、魔術師の赤を繰り出した。魔術師の赤が放った炎の揺らめきから姿を現したのは、甲冑を身に纏う騎士。
銀色のレイピアが踊るようにしなり、炎をテーブルに叩きつけて無力化した。

「俺のスタンドは戦車のカードをもつ銀の戦車“シルバー・チャリオッツ”!モハメド・アヴドゥル、始末してほしいのは貴様からのようだな」

叩きつけられた炎はみるみるうちに形を変え、円卓を縁取る数字となった。もえぎはその卓越した剣術に圧倒される。

「そのテーブルに火時計を作った!火が12時を燃やすまでに貴様を殺すッ!!」
「恐るべき剣さばき、見事なものだが…火が12時を燃やすまでにこの私を倒すだと、相当うぬぼれがすぎないか?ああーっと?」

「ポルナレフ……名のらせていただこう。ジャン=ピエール・ポルナレフ」
「メルシーボークー。自己紹介、恐縮のいたり…しかし」

銀の戦車の使い手の宣告に動じる様子もなく、アヴドゥルは言外に名を尋ねた。銀の戦車の使い手――ポルナレフは、決闘に挑む中世の騎士のように名乗りを上げる。
ポルナレフの礼儀を重んじる騎士のような振る舞いにアヴドゥルも倣って礼を言うと、不敵に微笑んで火時計の炎を操った。
途端にテーブルは炎に包まれ、ガラガラと崩れ落ちた。

「ムッシュ・ポルナレフ、私の炎が自然どおり常に上の方や風下へ燃えていくと考えないでいただきたい。炎を自在にあつかえるからこそマジシャンズ・レッドと呼ばれている」

「フム、この世の始まりは炎につつまれていた。さすが始まりを暗示し、始まりである炎をあやつるマジシャンズ・レッド!しかし、この俺をうぬぼれと言うのか?この俺の剣さばきが――…うぬぼれだとッ!?」

感心するような口ぶりのポルナレフは、静かに警告するアヴドゥルをきつく睨み、ポケットからコインを取り出し宙に投げた。
巻き上がる火の粉の合間を5枚のコインがばらばらと宙を舞い、全員の視線がそこに集中する。
自らの重みでコインが落ちる一瞬をついて、銀の戦車がレイピアを突き上げた。

「コイン5つをたったのひと突き、重なり合った一瞬をつらぬいた…ッ!」
「いいや、よーく見てみろ」

承太郎の言葉どおりレイピアを注視すると、コインとコインの間に炎が燃えている。
卓越した剣技だけでなく素早さと正確さを兼ね備えている銀の戦車を前に、アヴドゥルは苦々しく唸った。

「これがどういう意味をもつかわかったようだな。うぬぼれではない…わたしのスタンドは自由自在に炎をも切断できるということだ…。フフ、空気を裂き、空と空の間に溝をつくれるということだ……つまり、きさまの炎はわたしのシルバー・チャリオッツの前では無力ということ」

チャリンと音を立ててコインが床に散らばった。
騒ぎに駆けつけた店員が燃え盛るテーブルを前にオロオロとうろたえているのを見ながらもえぎは額に汗を流した。
ここで戦闘になってしまえば、間違いなく店員や他の客を巻き込んでしまうだろう。それに圧倒的な熱量を持つ魔術師の赤を易々と翻弄し、素早い剣技と卓越した技術を持ち合わせる相手にどう対抗するというのか。

乱暴に開け放たれたドアの音に驚き振り返ると、ポルナレフがドアに手を掛けこちらを睨んでいた。一体いつの間に移動したというのだろう。

「俺のスタンド…チャリオッツのカードの持つ暗示は“侵略と勝利”。そんなせまっ苦しいところで始末してやってもいいが…アヴドゥル、おまえの炎の能力は広い場所のほうが真価を発揮するだろう?そこを叩きのめすのが俺のスタンドにふさわしい勝利――…全員おもてへ出ろ!順番に切り裂いてやるッ!!」




ポルナレフが決闘の場に選んだのは、香港島は大坑道の山腹斜面に位置するタイガーバームガーデンだ。
創立者の名を冠した胡文虎花園(アウブンホウガーデン)の名でも親しまれているそこは、元は軟膏薬の売り上げで巨富を得た大富豪一族の別荘だった。
独特のセンスと世界観をつくりあげている奇抜なジオラマ群は極彩色に彩られ、見方によってはグロテスクとも取れる造形をしている。

先を歩くポルナレフを追って目が回るようなギラつくジオラマ群が並ぶ階段を上り、庭園中腹の広場までたどり着くと、ポルナレフは広場の中心で挑発的に宣言する。

「ここで予言をしてやる。まずはアヴドゥル…きさまは、きさま自身のスタンド能力で滅びるだろう……」

対するアヴドゥルは何も応じず、承太郎に手を出すなと制するとゆっくりと一歩前へ出る。その後姿から、揺らめく陽炎のように魔術師の赤が現れた。
赤色の火の鳥と銀色の騎士がにらみ合う。
手出し無用の真っ向勝負が始まった。



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