□それでは誘惑の準備を
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※Scream of Under Pressureヒロイン


つい数十分前に断わりもなく私の部屋に入ってきやがった彼、メローネは私のベッドに転がってベイビィ・フェイスと普通のノートパソコンを左右で同時にいじっている。
私はそんな器用なわがまま野郎をいつものように無視して、ソファーで雑誌を読んでいる。

ああ、まったくもう…。
彼のわがままで自分の城を荒らされるのは初めの頃はとても戸惑ったものだ。慣れというのはおそろしいもので、今となってはすっかり日常の風景に溶け込んでしまっている。

「メーローー?あんたは何のために私の部屋に来たワケ?」

のんびり鼻歌をうたうメローネの声をBGMに、私は雑誌をめくりながら尋ねた。
んー、と間延びした返事で濁したメローネは、依然カチャカチャとパソコンとスタンドを構っているらしい。
本当にコイツは何しに来たの?と思ったけど、あることを思い出す。
確か今日の非番は私、メローネ、それからリゾットの3人だけ、か…。



ここで暮らしはじめて解ったけど、メローネは掴み所がない猫みたいな性格だ。
ふらふら〜っと私に話しかけてきたかと思うと、他のメンバー―特にギアッチョやジェラート、イルーゾォにペッシといった歳が近い連中に、妙なスキンシップや猥談を持ちかける。
大体はぶん殴られて(誰に、とは言わないけど)ふらふらと私の所へもどると、彼からしてみれば“ほんの些細なイタズラ”をしてくる。
私がその“おしおき”をかえすと、彼は「ディ・モールト良いね」と言って笑うのだ。

だからといって私は彼が苦手、というわけじゃあなくて。どちらかといえば仲良し、なんだろうな。
言うなれば姉と弟、兄と妹のような関係だと思う。

そんなこと彼にはとても言えないんだけど。
言ってしまえばこのわがままっ子が、それはそれはあくどい笑みを浮かべて喜ぶ姿が目に見えているから。



「ねぇねー。あのさあ、明日暇か?」

思考の海から引き上げたのは当然ながらメローネ。
雑誌にそれなりに夢中だった私はフッと顔を上げた。メローネはオフショルダーのセーターとショートパンツに、ハーフレギンスという随分ラフな格好だった。
素足をぷらぷらとばたつかせたメローネは、パソコンとスタンドから手を離してこっちを見ている。

私は心の中の絶壁で叫んだ。

そのセーターとレギンスの下は何も着ていないだろ!私は知りなくもないのに知っているんだからな!!
しかもそのセーター私のなんだけどッ!!返せ…いや、やっぱいいわ…。
…だってメローネは無理なく着こなしているんだもの。私の女としての何かにがっつりヒビが入った。

私はよっぽど彼にとって“良い”表情をしていたのか、頬を紅潮させ最高に気持ちの悪い笑顔だ。



私は雑誌を放ってそんな彼に近づき、何か“よからぬこと”を企む気色悪い顔面をぐいっと押した。
メローネは楽しそうに笑って私が座れるスペースを作ると舌っ足らずな口調で「ひまだろォ?」と首を傾げた。
メローネの隣に座り、ついでにさらさらのストロベリーブロンドをひと撫でする。

「ん、暇だよ。だって私も貴方もリゾットも、明日までオフだもの」

そうだっけ、と言ったメローネはくすくす笑っている。なにが面白いのかわからないけど、子供っぽい笑い方に、つい頬が緩んだ。

「じゃあさ、オレと君とリゾットと。3人でデートしよう」

良いイタズラを思いついたときの子供のような表情で私を見る。こういうときのメローネは嫌いじゃあない。

「そーね…じゃあ3人で表通りのパスティチェリアに行こうよ」

「いいねぇ!どーせならリゾットに買わせよう。もちろん、左から右、上から下までぜーんぶ買わせよう。そんでオレたち3人で食べつくしちまおうぜ」

私が行きたかった表通りのとても評判が良いパスティチェリア。
メローネはそのことを知っていたのかどうかは知らないけど、私にとっては明日の予定がものすごく楽しみで仕方なくなった。

そうなりゃ作戦会議!とメローネは意気揚々と私の腕を引きパソコンと向き合う。
今頃1階で、みんなが放り投げた書類と格闘している我らが甘党リーダーに、飛び切りのプレゼントをしなくちゃあね!




それでは誘惑準備

Fine.

お題:確かに恋だった

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