□罪を作るお仕事
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※Scream of Under Pressureヒロイン


夜のヴェールを深く被った街の一角。
長針がもう2回りすれば日が昇り清々しい朝が迫る中、緊張の糸をピンと張った空気が鈍い音を響かせ、この場に生と死の境を戦慄かせた。

「早くしろ、時間がないぞ」

緊張の糸を千切ったのは、今日の任務のパートナーであるイルーゾォだった。
それに答えることなく頷いてみせると、彼は足音なく気配を消した。おそらくスタンドを使ってこの場を去り、邪魔者が来ないよう近辺を見回りに行ったのだろう。

地面に拳を突くような格好のまま視線を下へ向けると、そこには渾身の力で叩き付けた…滑稽なまでに痩せた鶏ガラのような女が。
先の鈍い音はこの女を地に叩き付けたとき関節を強く押し込んだ音だ。

ひぃ、と唸る女の目は濁りきって澱んだ泥水のよう。
今まさに生を捨てるというのに、ぼんやりと何を見るでもなく視線を空虚にさまよわせている。
まるでこの世の全てに無を見るようなどろりとした眼をしていた。

それにカッとなった私は愛銃をホルターから抜き、女の腹に押し付けて撃ち抜く。

――ドッ!!
「っ、ぎゃあぁあぁぁあああ!!」

サプレッサーを付けなかった割に、音が響くことのなかったそれは肘に強い衝撃をもたらし、がつんと弾を女にめり込ませた。
女は鋭い痛みに反射的に悲鳴を上げる。今更“生”にしがみつこうとぎゃあぎゃあと泣き喚く。
しかし私が喉元を捻り、抑えつけているからかグエグエと蛙の様な声を出すのみ。ああ、なんて無様なんだろう。


「生きたかったのなら――――――覚えておきな」
――バンッ…!


頭に照準を定めたそれは、私が全てを言い終わる前に火花を散らし、いとも容易く女の命を刈り取った。







「"巡り廻って全て自分に返ってくる"…お前らしいな」


石畳に転がる女の持ち物を漁りながら、イルーゾォは苦笑いで零した。
ほんの小さく発したそれを聞き逃さなかった彼は、きっと私が服に忍ばせていた鏡の中で聞いたのだろう。

「まぁ、ね…だって、そうじゃん?」

ふっと自嘲気味に笑いつつも手は休めずに目的の物を探る。
それからはお互いに無言のまま、女の服や持ち物から必要なものを探り当てる作業に没頭した。



「あっ…見つけた。リストだ」

イルーゾォが鞄の裏地を破った所から出てきたものは、目的だった娼婦の売却リスト。
未だ違法の傾向にある売春の斡旋だけど、近頃盛んになってきて、それで荒稼ぎする組織が増えてきているらしい。
それを敵対組織ごと横取りするとパッショーネは決めたらしく、敵組織の幹部や、斡旋に関わる人物の抹殺を任されたのが、私たち暗殺チームだった。

何度か確認をしたイルーゾォはそれを懐にしまうと、私の方をクルリと振り返った。
そのとき靡いた艶やかな黒髪が、街灯に反射してきらりと輝いた。その時の彼の表情はなんとも形容しがたいものだった。

「なぁ、さっきお前が言ってたこと」
「巡り廻って全て自分に返ってくるってこと?」

「そう、そんじゃあおれらも何時か、顔も知らねぇ誰かに殺られるっつーことなんだよな」

すらりと髪留めを解きながらそう言う彼は、表情は変わらず苦いままだが背筋を伸ばし、どこか清々し気だ。

「それが"業"なんだよ」
「おれの知ってる"業"とは大分違うぞ」
「いいのー、結局は回るんだよー」

ふうん、と興味無さ気に相槌をするイルーゾォに続いて私もこの場を離れる。
角を曲がったところにある鏡の中に潜りこんでしまえば、この場に誰がいたのか解らなくなる上に、もう私たちを探すことも出来なくなる。

後に残るのは濁った瞳で事切れた鶏ガラのように痩せた女のみ。


間も無くすると、夜のヴェールが上がり何事もなくイタリアの夜が終わり、宝石のように輝かしい日差しが石畳を照らし出す頃合だ。




を作るお仕事

Fine.

お題:ポケットに拳銃

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