□不幸のラブレター
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※Scream of Under Pressureヒロイン ちょっと未来のはなし


ブェックショイ!と夕暮れの海岸に轟いたのは、ギアッチョのくしゃみ。続いて聞こえたズズッと洟を啜る音に、不快感から眉間にシワがよる。

「あークッソ寒ィ!ったくよォ、オメーが海行きてえっつーから連れてきたんだぜ?満足したならさっさと帰るぞ!こっからうちまでどんだけ時間かかると思ってんだ!」

ぶちぶち文句を並べるギアッチョを、半ば無視するようにして私は手元を見やる。適当にあった紙に、今の思いの丈をぶつけた手紙だ。

出来映えには満足しているけど、確認のためにもう一度手紙を見直して、四つ折りにしながら「終いにゃ置いてくぞ!」なんて言って気を引くギアッチョを振り返った。

「ホントに置いてく度胸ないクセに。ギアッチョのばーか」
「ンだとこのクソガキ…!マジで置いてったるぞ!……あ?何してんだオメー」

ひたすら待たせた挙げ句飛び出した、子供じみた悪口にはやはりカチンときたようで、砂を巻き上げてズンズン迫ってくる。
ギアッチョは私の手元を見ると、毒気が抜かれたようにキョトンとしている。

「…手紙。ねぇギアッチョ、空ビン持ってたりしない?ペットボトルでも可。蓋ができるやつね」

その気はなかったけどぶっきらぼうになってしまったのを誤魔化すように、声を一段高くしておどける私を見て、ギアッチョは私が何をしたいのか合点がいくと「手紙ねェ」と小バカにするように言って露骨に顔をしかめた。

「ボトルメールの真似事か。海のカミサマにお願いするよーな柄じゃあねーだろ」
「いいじゃん別に!お願いギアッチョ、これ終わったらおとなしく帰るし」

一度やってみたかったラブレターってやつだ。私の「お願い」の連呼に、ギアッチョは片耳に指を突っ込んで、嫌そうな顔をした。

「あーあーあーあー!うっせーな、わかったよ!ったくしゃーねえ、気が済んだらマジで帰るからな」
「グラーツィエ、ギアッチョ!あなた最高!」





薄暗くなった海岸を手分けして歩き、それっぽいボトルを捜す。
暫くして、遠くの方でギアッチョに名前を呼ばれ、走りづらい砂地を駆ける。

「ほらよ、これで満足しろ」

そう言って投げ渡されたのは、砂が詰まったペットボトル。うっかり取りこぼし、ドスッと鈍い音を立てて砂に突き刺さった。
私はサラサラと砂地に中身を空けて、四つ折りにした手紙をくるくると巻き、ペットボトルに詰めた。紙だけではうまく投げ込めないと思い、砂を一握り流し込んで蓋を閉めた。

「よーし。それじゃいっくよ!」

拙い投球フォームで投げたそれは、重りのおかげできれいな放射線を描き、真っ暗な海の波間にぱしゃんと落ちていった。

すでに日は落ち、着地点は白波に掻き消されてどこへ落ちたかわからない。
今はもう会うことはできない彼らに宛てた手紙を思い、暗闇の海をぼんやりと眺める。

あの手紙には今の思いの丈と共に、今の私がここまで成長できたのはあなたたちの存在があったからだと、気恥ずかしい感謝の言葉も書いた。
本当に彼らに届くとは思えないけど、十分満足だ。

そんな柄にもないロマンチックな思考をぶった切ったのは、またもギアッチョの品の無いくしゃみだった。

「ズズッ……あのさあ、ボトル戻ってきてんだけど」
「ハアッ!?……う、うるさいなあッ!もういいよ、帰ろう!帰りたいんでしょッ!きったないくしゃみ!」

腕をさすりながら私の足元を指し、気の毒そうな顔でギアッチョは言う。
さんざんわがまま言った後の情けない結果が波打ち際に寄せている。私は込み上げる恥ずかしさを誤魔化すように、ペットボトルをグシャリと踏み潰し、逆ギレのまま海岸に背を向けた。


結局ゴミの不法投棄にしかならなかった私の手紙は、もし彼らに届いたとしてもゴミクズのように棄てられるのだからと思うと少し寂しく感じた。
正直彼らならやりかねないだろうとも思う。

でもいい、私も彼らも視点を変えればゴミクズと同じようなものなのだから。



これからの帰路をぶっ飛ばしていくのだろうギアッチョの車に乗るのはかなり気が引けた。絶対ここで潮風にあたっているより凍えるドライブになるだろうから。

彼にその気があったかはわからないけど、誰に宛てたのかを聞かないでくれた不器用な優しさを思い、少しぐらいは我慢してやるかと、偉そうなことを思った。




不幸のラブレター

Fine.

お題:ポケットに拳銃

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