短
□甘ったるい沈黙
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※夢追い少女は星屑を掬う ヒロイン
ふっと意識が持ち上がったのは、何かにホールドされているような動きづらさを感じたから。
ぼうっとまどろむ目を開けば、視界いっぱいの典明くんの端整な寝顔。
「んぁ…典明くん…?」
おそるおそる声をかけてみても、彼はずいぶん深く寝入っているようで細い寝息しか返ってこない。
でもあたしを抱き枕にしている腕と足は頑固なままだ。
ちょっとだけ身をよじって枕もとの時計を確認すると、いわゆる丑三つ時。
おやすみを言いあってからまだほんの数時間しか経ってない。
「んふふ…くちあいてる」
ほんの少し大きな口はゆるーく開いてて、いたずら心から薄い唇をつうっとなぞった。
するとちょっとだけむにゃむにゃとくすぐったそうにして、あんまり見ない油断した典明くんの可愛らしさにきゅんと胸がうずいた。
中途半端にいたずら心がわきあがって、眠る典明くんをつい観察してしまう。
閉じられた瞼にはうっすらと縦の切りキズが残っている。
随分キズは薄れてしまったけど、あたしはそのキズを見るたび、あの過酷だったけど幸せでもあった50日間を思い出す。
旅の最中、敵と立ち向かう鋭い視線や、男同士ふざけあってる典明くんの鳶色の瞳がきらりと輝いて、それが意外に歳相応の少年らしくって。今思えばその瞳に恋をしたのかな。
いつも耳元で光るさくらんぼみたいなピアスは今は外されてシェードランプの灯りの下で輝いている。
たまに紅茶色の髪にかくれてしまうのが少しもったいないなって思う。
ピアスを隠してしまう、柔らかく波打つ前髪を人差し指にくるりと巻きつけて梳くと、つやりとした絹織物みたいに見えた。
巻いた毛先が何気なく頬に触れたときの、ほんの少しくすぐったそうな表情がとっても可愛い。
男の人なのに、いつもはかっこいいのに、はにかむ表情がとっても可愛いずるい人。
寝るときのパジャマのボタンは必ずふたつ開いてて、はじめて見たときは結構ドキッとしたっけ。…いまだ慣れないのは彼にナイショにしてるつもり。
隠れてしまっている彼のお腹には深々と、あの時の傷跡が残っていて……典明くんが生きててほんとよかったと思う。
ああ、やだやだ。あんまり悲しくなること考えたくないのに。
「のりくん…」
甘えるように細く彼の名を呼ぶとそれに応えるように、きゅっと抱き締められる。
少し苦しいけど典明くんの体温に、シャンプーの香りに、彼のにおいに包まれて。典明くんの体温がうつって眠気がもどってくる。
小さくおやすみと呟いて胸元にすり寄ると、背中に回った手が優しくあたしを引き寄せたような気がした。
きょうも一日おつかれさま。
甘ったるい沈黙
Fin.
お題:確かに恋だった