□You And I 煙草とキャンディー
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※夢追い少女は星屑を掬う ヒロイン


シンガポールでの一件から、敵の襲撃に備え2〜3人で一部屋を使うことになった。今日の部屋割りは、あたしと承太郎。
お兄ちゃんはギリギリまでよく分からない難癖を付けていたけれど、承太郎はお兄ちゃんに向かって「コイツに手を出すほど困っちゃあいねー」とかなんとか、大分失礼なことを言ってくれた。

ドライヤーで乾いた髪にブラッシングしながらそんなことを思い出していると、入れ違いでお風呂に入った承太郎が戻ってきた。
トレードマークの帽子が乗ってない黒髪を見ながらあたしはニヤニヤ、棒付きキャンディーを口にいれた。サワー系のラムネ味が口いっぱいに広がる。
承太郎はそんなあたしを気にもとめず、ベッドに体を預けてプカプカと煙草を燻らせた。

「寝る前にタバコたくさん吸うのとか、歯が黄色くなっちゃうかもよ〜?」

意地悪っぽく目を眇めて言うあたしを、器用に紫煙のワッカを作る承太郎はジロリと目線だけで捉えると、紫煙のワッカを吹き消した。

「テメーも寝る前にアメ玉なめてんだろ、虫歯になるぜ」

承太郎の冗談めかした口調に、ついキョトンとしてしまう。
だって承太郎といえば、いつもクールでどちらかというとジョークとか、言わないでしょ?

「は、歯磨きするもん」

咄嗟に言い返すあたしの表情が面白いのか、承太郎は肩を揺らしてクックッと笑いを噛み絞めている。

「ガキみてーな言い方するなよ」

眦を下げてからかうちょっぴり砕けた雰囲気の承太郎を見て、こーいうのがギャップかと悟る。
うん、この承太郎を見ちゃえば間違いなく女の子はイチコロだと思う。
罪な男ですなあという意味を込めて「フーン」って言ってやると、承太郎は何か察したのかあんまりいい顔はしなかった。

「どっちにしてもあたし、あなたのそんな顔はじめて見たかも」

クスクス笑うあたしに、承太郎はあきれた表情のまま「やかましいからはしゃぐんじゃあねー」なんて言って顔をしかめた。
でも、彼の声色はそんな嫌そうなふうではなくて。ここまでの旅で彼と打ち解けれたんだなあとしみじみ思ってしまう。

それでもいつ雷が落ちて部屋を追い出されないためにも、早々にクスクス笑いを引っ込めラムネ味のキャンディーに集中した。



カラコロと口の中でアメ玉が歯に当たる小さな音と、紙巻き煙草がじわりと燃える微かな音のみで静かな部屋。
ベッドに入って眠る以外やることのないあたしは、手持ち無沙汰にキャンディーの棒をくるくる回しながらそうっと隣のベッドで煙草をふかす承太郎を横目見た。

彼もよっぽど暇なのか、備え付けの聖書をパラ読みしながら煙草をプカプカ。あんまり面白くなさそうな顔をしている。と、おもう。
何せ承太郎といえばあんまり表情豊かなタイプじゃあない。

きっとこっそり彼を見ているのはばれてるだろうけど、気付かないふりをしてキャンディーを口の隅に追いやり「なに読んでるの?」と声をかけた。

「神様とやらの教えだな」
「…おもしろい?」

「わからん。おれはこういうのに興味ねー。だいたい『教えられた救い』ってのはテメーが満足する結果そのものだろ」
「ふうん。まあこーいうのはいろんな価値観があってこその『こたえ』だし、あたしにはよくわかんないな」

「……」
「っていうか、物事をむずかしく考えない人の言葉があんがい『救い』とやらになるんじゃあないかな?」

自分で聞いておきながら、ずいぶん曖昧な答えになってしまった。
何となく気まずくて、キャンディーに夢中のふりをした。

承太郎は短くなった煙草を揉み消して、聖書をもとあったところへ戻しながら小さくため息をついた。

「…お前のそーいうところが、おれたちの『救い』になってるのかもな」

「…え?」
「お気楽なガキはとっとと歯磨きして寝ろっつったんだよ」

「絶ッ対ちがうこと言ったでしょ!それに承太郎だって寝る前歯磨きするんだからねッ!」

小さくなったラムネ味のキャンディーを噛み砕きながら顔をしかめるあたしを承太郎はフフンと鼻で笑い、洗面所へと消えていった。あんがい真面目なのかな?

用済みになったキャンディーの棒をゴミ箱に放りながら、そういえば明日も早い出発なんだと思い出す。
だからあたしもちょっぴり意地悪で意外と表情豊かな不良番長のあとで歯磨きしなくちゃあ。

そんなことを思った、とある夜の一服。



You And I
煙草キャンディー



Fin.

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