アニ研と愉快な仲間達
□拒否
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氷雨は家に着くなり家族に『ただいま』も言わず部屋に閉じこもった。
駅の中で自分が抱いた感情──あれは……
「……違う……っ」
氷雨は大きな枕に顔を埋めてつぶやいた。
「……あれは……っ、恋愛感情じゃない……っ!!」
そのつぶやきは枕の中に溶けて消える。
志弥の笑顔に女装した志弥が重なっただけだ。
「……違う……違う……!!」
何故否定するのか……自分でも分からない。
志弥のことを思い出すだけで──
ドクンッ。
心臓が、高鳴る。
キュウッと、締めつけられるように、痛む。
そして、甘い──
「……消せ、消せ!!」
氷雨は心の本音を振り払う。
「……っ」
志弥の笑顔を振り払う。
自分が志弥を好きになったら──
氷雨はピタリと動きを止める。
──嫌われてしまう……。
『好きになったのがたまたま男だった』……みんながみんな、そうは思わない。
志弥の常識は逸脱しまくっているが、さすがに同性を愛したりするほどの逸脱は見せてない。
志弥に嫌われてしまうことへの恐怖心が、氷雨の恋心を抑え込んでいた。
逆に、志弥に嫌われることへの恐怖心が生まれるほど……氷雨は志弥にのめりこんでいるとも言える。
氷雨はもやもやとしたまま、夕飯も食べずに眠ってしまった。
・★・
チュンチュン……
「……ん……」
雀の鳴き声か、はたまたカーテンの隙間から差し込む暖かな太陽の光からか、氷雨はゆっくりと目を覚ました。
「……あ……さ?」
寝呆け眼を擦ってケータイを開くと、家を出る30分前だった。
「〜〜〜っ!?」
眠気など一瞬で吹き飛び、氷雨はベッドから飛び出た。
「……あ、えっと……」
脳内がまだ混乱しているのか、氷雨はやらなくてはならないことがうまくまとまらない。
「風呂、そう風呂入らなきゃ!!」
氷雨は何故か上に着ていた服だけを脱いで部屋を飛び出した。
「氷雨!?」
その姿を見た氷雨の母親が驚いた声を出す。
「風呂行って来る!!」
氷雨はそのまま一直線で風呂場へと駆け込み、風呂場で穿いていたジャージを脱ぎ下着も脱いで風呂場の外に放り出す。
急いでシャワーの栓を緩めて──
「さぁっむ!?」
冷水を浴びて氷雨は飛び上がった。
昨日悩んでいたことなど、どこかへ飛んでいってしまっていた。