死にたがり

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それからビョウインでの生活が始まった。


本来、死神は死期が近づいた人間しか姿を見ることはできないが、
僕は死期が近づいていない人間にも見えるようになっている。


姿が見えることによってより自然に相手をなぶることができるからね。



朝からビョウシツ(病気の人間が寝泊まりするところ)に向かうとベッドの周りを片づけている雪菜がいた。


こちらに気付いたようですぐにふにゃりと笑った。


「あ、おはよう征十郎君。こんなに早くから来てくれたの?」



「おはよう。今日は土曜日だからね。
近くを散歩していたところなんだ。」



「そっか、私もお散歩したいな。今日はいい天気だし。」



片づけている手を止めて窓の外に目をやる。
どこにいるのかはわからなかったが鳥のさえずりが聞こえた。



「じゃあ少し散歩に出かけようか。

中庭ならいいだろう?」


「ほんと?嬉しい!

すぐに片づけるから待っててね!」



「そんなに急がなくてもいいよ、
時間はまだたくさんあるから。」



慌ただしく手を動かす雪菜に声をかけると
照れくさそうにえへへと笑う。


何がそんなに嬉しかったのか。


僕にだってわからないことがいくつかあるが、


そのうちの一つは人間はすぐに笑顔を見せるということだ。



そんなことを考えていたら声をかけられた。



「終わったよ、征十郎君。早くいこう!」



僕の腕を引き、外に行こうと足を進める。



階段を下りて受付を横切り、病院の中庭へとやってきた。



今の季節は春、そして今日の気温もあたたかかった。


花壇には色とりどりの花がたくさん植えられていた。


雪菜はそれに近寄ると嬉しそうに声を上げた


「あ、チューリップ!

今年も綺麗に咲いてる・・・」



「そうだね。どうかしたのか?」



チューリップを見つめる瞳が揺らいだ。
そして悲しげな表情に変わる。



「来年は、見れるのかなあ。」




悲しげに笑う雪菜はとても儚く見えた。


人間は本当に脆い。



「見れるさ。また一緒に見に来よう。」


桃色のチューリップを見つめ、また立ちあがる。



「ありがとう。私ね、明日から新薬治療が始まるの。

とても辛いんだって。だけどね」



まっすぐにこちらを見つめて言った。



「また征十郎君と見たいから、頑張る。」



先ほどまでの表情からは一変して、とても強く見えた。


人間とは不思議なものだ。






ねえ、君は死ぬんだよ?
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