死にたがり

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それから僕は毎日彼女の病室に通っていた。


もちろん、励ますだとか、そういうのではない。


何の意図もなかった。

ただ退屈な毎日を何かで紛らわせればそれでよかったからだ。




今日もまた花を持って雪菜の病室へ足を踏み入れた




「あ、征十郎くん!
今日も来てくれたんだ。ありがとう。」



こちらに気が付くと花のような笑顔で笑う。


人間の男ならきっと惚れたりだとかしてるのではと錯覚する。


でも僕の心はピクリとも反応しない。



まあ、人間に感情など、



持つ方がおかしいのだから。







「お菓子、こんなのしかないけど・・・」



「ああ、気にしなくていいよ。」



数々のお菓子が目の前に並べられる。



別に僕は食べたくないのだが・・・




「そういえばさ、」



雪菜がお菓子の袋を一つ手に取って口を開いた。



「征十郎君は、夢とかある?」



チョコレートをひとつ口に入れ、こちらを見つめてくる





「・・・いいや、今は特にないかな。

雪菜は何か夢があるのかい?」




「・・・うん。あるよ。」





「そうか。」




「私、教師になりたいんだ。」




窓の外を見つめ、悲しげに微笑む




「ならなればいいじゃないか。



君に合っていると思うけど。」




まあ、それは叶わぬ夢になるだろうけどね





「ふふ、そう?


私、今こんな状態だから余計に思うんだけど、

なにか、遺したいな。と思って。」



「遺したい?」



「うん。教師はさ、年老いて死んでも
生徒は残るでしょう?

そして、私の事を一人でも覚えていて、

私のような先生になりたいって思ってくれたら

私はきっと生きていた意味があって、

生きていた証を残せるんじゃないかなって。

病気がわかる前から思ってたことだけど、

実現、できそうにないなあ。」




顔は笑っているのに
シーツを握りしめた手は小さく震えていた。



全く。人間とは一体何がしたいんだ


辛いなら辛いと言えばいいのに。


泣きたいなら泣けばいいのに。




こんなふうに感情を隠すなんて



僕には理解ができない。


もっとも。表情さえあまり顔に出さない僕が言うのもなんだけど。



少しだけ、雪菜の本当の姿が見たいと思った





 


      
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