ろんぐ

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美しい女性の顔に滴り落ちる血を、ペンギンはただ黙って見ていた。

女性は倒れている男達を無慙な姿にしたであろう銃を構えていた。
ペンギンへと銃口を向けて――


「これはお前が殺ったのか?」

「……」


黙り込む女性は銃の引き金に指を通した。
女性の動きにいち早く気づいたペンギンは更に口を開く。


「目撃者を全員殺すのか?」

「……」

「そいつらはなんなんだ?そいつらを殺してお前の何になる?」


女性にひたすら問いただす。
時間稼ぎなのかペンギン自信の好奇心なのかは分からない。
が、女性がいきなり引き金を引くことは無いようだ。


「誰かが来るのは時間の問題だ。何処かへ逃げたほうがいいと思うが」

「私を逃がそうとしてる?それとも、罠?」

「お前を逃がしたい」


疑いの目を向ける女性に、ペンギンは己の右手を差し出した。
女性は持っていた銃を握ったままだ。


「嘘」

「嘘じゃない」


短く吐き捨てられた言葉にペンギンは否定の言葉を返した。


何故か女性を逃がしたかった。

何故か、ではない。
理由は明らかに存在していた。


血に濡れた手が。
血に濡れた服が。
鋭く光った目が。

誰も信用しない孤独が記憶のそこに眠っていた。


――おれにそっくりだ


トラファルガー・ローに出会うまでの、孤独な自分と重ね合わせた。



「おれを信じてくれないか」


口から漏れた言葉は、何故か弱々しく聞こえた。
寂しげな声が赤の世界に響き渡り、少しだけ時間が止まったかのような錯覚を覚えた。


「……」


女性は無表情のままペンギンを見つめ――銃の引き金を引いた。

少しだけ意識の残っていた、足元の男へと向けて。



口から煙の漏れる銃を捨て、女性はペンギンの右手に己の左手を預けた。


「信用、するから、連れて行って」

「…責任を持って逃がそう」


口元を歪ませたペンギンは女性を米俵のように己の右肩に担ぎ上げると、傍に落ちていた女性のものらしきボストンバッグを左手に持ち、勢いよく駆け出した。


目的地は、船長と仲間が待つ自分の船。


疲れでも溜まっていたのか、女性は気を失ったのだろう。
右肩が少しだけ重さで軋んだ。













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