ろんぐ

□06
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静寂。


この一言に染まった部屋。
現実を見ないように俯いたメアはシーツを更にきつく握り締めた。


「こいつのバッグの中に入っていたものだ」


ローはメアのバッグを机に置くと、そのまま逆さに持ち上げた。
バッグの中のものが音をたてて落ちていく。

空になったバッグは宙に放りなげられ、抵抗することなく重力に従い、床に落下した。

机の上には、隠れるものが無くなってしまった三つの代物。


とんでもない金額がかかれた手配書の人物が身につけていた――
シャチが怖がっていた人物が身につけていた――


黒いコート。
黒いブーツ。
恐ろしい骸骨の仮面。


呆けたようにただひたすらその代物を見つめていたシャチは信じられないと言うように声をあげた。


「でも、ペンギンの話によると現場は血だらけだったそうじゃないですか!死神は血を流さないんですよ!?」


怖いからこそ調べた死神の話。
一番詳しかったシャチはいち早く疑問を抱いていた。


「簡単な話だ」


短く呟いたローはメアへと視線を向けた。


「ただ単純に、自分が死神屋だということを周りに知られたくないからだ。そうだろ?」

「……」


静かに首を縦に振ったメアは呟いた。


「誰かに狙われたり、関係ない人を死神業に巻き込むのは嫌」

「…昨日殺した男共はなんだったんだ?」


現場を見てからの疑問はいくつかある。
混乱することなく冷静な今のメアなら答えを教えてくれるだろう。

淡い期待を抱いたペンギンは一つずつ疑問を問おうとした。


「一昨日、死神業として殺した男の弟がこの島に来た」



島に上陸した弟も殺してしまおうとしたメアは死神の格好をし特別な移動手段を使い、家来に気づかれずに部屋に侵入した。

己の実力を過信しすぎた弟はあっさりと死神に殺されてしまう。
弟を殺した死神はまた特別な移動手段で屋敷から逃げた。

外に出てコートや仮面を脱ぎ、バッグに詰めたメアは歩き出した。

しばらく歩いていると男に声をかけられた。


――『死神を見なかったか?』

――『いえ、知らないです』

――『少しそのバッグを見せてもらおうか』


抵抗はした、が男の人数が多かったのが誤算だった。

男達は、主人の弟も殺された事実を知り死神を探していたのだ。


あっさりと開けられてしまったバッグからはコートと仮面とブーツが覗く。

警戒心を一気にあげた男達は攻撃態勢に入った。
あるものは刀を。
あるものは銃を持って。


見られてしまったからには仕方が無い。
邪魔者は殺すしかないのだ。
2年前、あの場所で誓ったのだから。

死神の能力を使わずとも、メアは強かった。
男達から銃や刀を奪い、ひたすら攻撃をした。

動いた時間は僅か3分。
あっという間につくりあげられた地獄絵図。
出来上がった地獄絵図をボーっと見つめていた姿をペンギンに見つかったのだ。



「能力を使って殺したら、目撃者が出たときに困る」

「殺した金持ちの関係者以外の人間に危害を加えたくないのか?」

「島の人は、あの人達にも、私にも関係ない」

「そうか」



気がつけば、話しをしているのはペンギンとメアだけだった。


ローはメアの話など関係なく、死神に仲間に入って欲しいのだろう。

ベポはペンギンが質問を終え、メアが話し終わるまで待っているのだろう。

シャチはあまりの驚きにまわらない頭を無理やり動かし、かんばって話を聞いているのだろう。


それぞれの事情を察したペンギンは早く話しを終わらせようとメアに新たな質問をぶつけようとする。


「死神の能力とは一体…」


なんなんだ、と問いかけようとした。
が、それは突然やってきたドアの開く音と仲間の声でかき消される。


「船長!島に来た海軍がこちらに気づいたようです!砲撃されています!」


仲間の声の後ろでは、砲撃の音とともに海軍の声も聞こえた。


「2億のトラファルガー・ロー!大人しく出て来い!」


ご丁寧に懸賞金とフルネームを叫んだ海兵に対し、ローは小さく舌打ちをした。


「話してる途中で攻撃とはな…」

「失礼な奴等っすね」

「アイヤー!」


ため息を静かに吐いたペンギンは立ち上がったメアに視線を向けた。


「続きは海兵を撒いてから、だな」


甲板に上がってきている海兵もいる。
少しめんどくさい戦いになるだろう。

迷惑をかけてしまったお詫びもかね、一緒に戦うことを決意したメアは黒いコートへと腕を通す。


――昼に死神として動くのは初めてだ


場違いなことを思いながら誰もいなくなった部屋を見渡した。

ブーツを履き、仮面をつけたメアはゆらりと揺れ、静かに部屋から姿を消した。




スーッと、お化けのように。









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