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□永劫回帰
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「前世療法って言ってね、催眠療法の一種で患者の記憶を本人が生まれる前まで誘導することができるんだって。簡単に言うと『前世を思い出せる方法』ってとこかしらね」
メアはいきなり変な話をしだす奴だった。
その場で思い出したことを言っているのか、おれに話そうと用意した話をしているのかは分からないが、おれはいつものようにその話を促すことにした。
「それはすごいな」
「本当にそう思ってるのかしら?」
キラーってほんとに読めないわね、と彼女は微笑みながら呟いた。
読めない、というのはこっちの台詞だ。
彼女はいつだって本心で物事を語らない。
何かを隠しているようで。
何かを見てみぬふりしているようで。
自分を隠しながら接してくる相手と良い関係が築けるかと言えば答えはNOなわけで、メアとは『異性にしてはよく話す友達』という関係でつき合わせてもらっている。
というかおれには彼女がいるしな。
「前世の記憶を元々持ち合わせている人っているらしいのよ。ねぇ、キラーは信じる?」
「記憶が合ったとしてもどうする?特になにもないだろう。今は今だ」
「前世と同じ容姿で、前世と同じ名前で、前世と同じ性格で…なんて奇跡だと思わない?」
「それはもう前世、来世の域を超えてトリップじゃないのか?」
「うん、そうだったら良かったのかも」
「今日のお前の話はいつも以上に意味が分からんな」
「あら、やっぱり普段も分かってなかったのね」
キラーは何も分かってないわ、と一言。
いままでの彼女では見られないような、私情を挟んだ声のトーンに多少驚いたが、高校生という微妙な年頃の女子にはこんなセンチメンタルな時期があるのかもしれないと自分に言い聞かせてみた。
いや、何かに気づきかけて、咄嗟に吐いた自分への嘘なのかもしれない。
何かを思い出す自分への恐怖からの嘘。
「私の前世は海賊よ。“疾風のメア”なんていって懸賞金まで賭けられて。普通に恋人がいたけど私は23という若さで旅立ったわ。その恋人の目の前で、ね」
「占い師にでも会ったのか?」
「いいえ、私の想像たる妄想よ。素敵でしょう?」
「悪趣味だ」
おまけに通り名が中2病くさい。
いや、中2病患者の方がもっとかっこいい名前を考えることができるだろう。
「あなたにも似たような名前をつけるとしたら…“殺戮武人”なんてどう?かっこいいわ」
「それも悪趣味だ。この平和な国で“殺戮武人”なんて言ったらすぐにサイコパス扱いだぞ」
「……本当にあなたは何も分かってないのね」
通り名についてなのか。
サイコパスについてなのか。
彼女の話についてなのか。
……はたまた、彼女自身についてなのか。
「前世で不仲の父親を殺してしまった魂がね、転生したらまた不仲の父親を殺してしまったっていうことがあるんですって。因果応報ってこういうことかしら?」
そんなことを言いながら、彼女はポケットから刃物を取り出した。
刃物、なんていうと聞こえが悪いが、彼女が取り出したのはカッターナイフであり、女子高生なら普通に持っている代物だ。
だが、このタイミングで出されれば聞こえが良かろうと悪かろうと、おれには恐怖しか刻み付けない。
「私の前世の続きだけれど、恋人の前で殺された私の魂はきっと、現世でも恋人の前で殺されてしまうんだわ。でもね、私の前世の恋人はもう現世の私の恋人にはなってくれないと思う。因果応報は成立しない。でも私が知らないところでまた前世のように知らない誰かに殺されたりするのは嫌だわ。無駄死にしているようなものじゃない」
「……」
「だからね、私は、前世の恋人に思い出してもらうことにしたわ。私の命をかけて」
そう短く吐き捨てると彼女は、尖ったカッターナイフを自分の首筋に当て、勢い良く引き抜いた。
真っ赤な液体がおれの目の前で揺らぎ、彼女の体が音を立てて崩れ落ちる。
真っ赤な液体が彼女の血液なんだと理解した瞬間、おれの中で全てが動き出した。
「…また、お前はおれを目の前にして去っていくんだな」
「……えぇ」
「……また、お前はおれを一人にするのか」
「あなたとその恋人を見ている私は生殺しにされている気分だったわ。あなたはこれくらいされて当然よ。ザマーミロ」
掠れる声で精一杯の悪態を吐いた彼女は静かに眼を閉じた。
倒れこむ彼女の横に座り、彼女が去り行く一回目にはいえなかった言葉を呟いてみる。
「さようなら」
寂しがりの彼女は、この言葉を待っていたのかもしれない。
諦めの悪い彼女は、この言葉で終わらせて欲しかったのかもしれない。
さようなら、メア。
さようなら、おれ達の恋。
前世を繰り返さないように。
恋人に置いてかれる悲しさを繰り返さないように。
自分の血に濡れた彼女は、静かに微笑んで見せた。
思い出してももう遅い
(恋物語はもう終わった)
(ちゃんとおれに縛られないで来世は生きてくれ)
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雰囲気だけで不思議話書きたかった。
なんだか自分でもよく分かりません(笑)
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