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ぼくを殺して。



まだ、5才にもいかないほどの少年は

地面に頭を擦り付けながら言いました。



ぼくは殺人兵器だ。

ぼくを殺してくれ。


何度も何度も、彼と同じ様に
ボロボロの私に頼みました。

みてわかるでしょう?

私にはそんな権利も暇もないの。


今日も今日とて急いでお使いをすましてご飯を作らなければ
殴られてしまうというのに。


私は倒れている少年の目線に会わせるように、屈み込みます。




いいえ、私は言い訳を作っていただけでした。

急ぎなんて嘘です。

確かに急ぐに越したことはありませんが、まだ男が言い渡した時間には十分余裕がありました。





私はきっと少年を、殺したくなかったのです。

否、死んで欲しくなかったの。


せっかくの綺麗な

手で

足で

力強く歩んで欲しかったのです。

自由に生きられる、今のうちに。



私は以前、仔犬にしてやったように懐からパンを取り出しました。

これは昨日の夜の残り。

半分をむしりとって、少年の口元へと運んでやります。



食べて。


頑なに口を閉じる少年へと訴えかけます。


たくさん食べて。

たくさん笑って。

たくさん泣いて。




生きて、生きて。

精一杯生きて。





ボロボロと気がつけば滴が頬を滴っていました。

少年も宝石のようなきれいな涙を流して
パンをアグリと口に含みます。


ボロボロで、泣きじゃくる私達を

通りすがるご近所さんは不可解な目で見つめました。



それも気になりませんでした。

だってそうでしょう?


どんな無様に道に転がろうと、

生きようとする姿は美しいの。









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