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□想い石、想い人。
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鈍く、太陽を反射して光る赤色に、
気がつけばグレイは足をとめていた。

ガラスのウィンドウ越しにみるそれにどうしようもないくらいの魅力を覚え、つい店内に足を運んでしまう。

現在、AM6:33。
まだ太陽が登りかけで空がうっすら明るい時間帯だ。最近は近頃のうだるような暑さが嘘だったかのように寒さが目立つようになっている。
そんなどこにでもあるような早朝のことだ。彼がいつも自分がギルドへと向かう道にある、とあるアクセサリー店を見つけたのは。

まるで不思議の国にでも出てきそうなモチーフのファンシーな風貌の
その店は今までなぜ気がつかなかったのかと思うくらい目立つ場所にあり、
飾ってあるものすべてが目を引くほどにキラキラ輝いて見えた。
特にグレイは店の入り口に飾ってある赤い石のはまった指輪の輝きに目を奪われた。
欲しいものを見つけたとき、運命を感じたので、と言う輩がいるが今のグレイはまさにそれだ。
まるでその鈍いシルバー色を放つリングが自分を買えと言っているようにさえ見えてしまっていた。

しかし、はっきりいって、グレイは指輪など嵌める趣味はない。

彼が得意とする氷魔法、アイスメイクは技術者の両手が命。
たかが指輪なんぞで失敗するという素人のような失態をおかす気はさらさらないが、ただ単純に邪魔になるというグレイの単純な思考回路から、気がつけば指輪をはめるということに関してのお洒落は全くすることがなくなっていたのだ。

まったく、なんの風変わりなんだか......

グレイは内心自分自身に呟きながら、その指輪をそっと片手にはめてみせると、照明が淡い光を放つ天井に透かしてみた。
真っ赤な情熱を思わせる燃える赤が彼の瞳を輝かせ、その色を映させる。

「あ、それね。」

突然背後からかかった声にびくりと肩をはねあげながら振り向けば、そこには腰を低く屈むように曲がらせた一人の白髪の老婆が立っていた。どうやらここの店主のようだ。

「珍しい石なんだよ。ここらではなかなかとれないものでね...」

ゆっくりとその口を動かす老婆の言葉にグレイは再び胸の奥底でじわりと広がる何かを感じる。
これはもう買うしかない、と。

「これ、いくらするんだ?」

気がつけばいくぶんかばかり頭の低いその彼女へとそんな言葉をなげかけていた。
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