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□ぱちぱちっ文@
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「グーレーイーっ!!!」

「離せくそ近寄るなくず抱きつくなばか。」

「なんで!!!?」

いつものように愛しの恋人にアタックをしようと助走をつけたナツの出鼻が挫かれる。
ガンっとショックを受けたようにその場に固まると、いつもより3割ほど増しのツン顔に視線を会わせた。
グレイはというと、そんな彼の残念そうな表情を見るや否や、厳しく言ってしまった罪悪感からか気まずそうに視線をそらす。

どうやら近付けさせてもらえないのは何かしらの理由がありそうだ。
ただ単に嫌われたわけでは無いのだとナツは内心安心する。

しかし、気を抜くのもそこまで。

取りあえずグレイに抱きつきたくて堪らないナツは原因を突き止めることに専念する。

まずは問診からだ。

「オーイっグレイ。
何で今日は傍に行っちゃだめなんだよー」

何の気なしに気だるく話しかければ、グレイは怒ったように顔をしかめた。
あ、不味いなとナツの心が察知する。
どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

「....、反省してないなら、いい。

ずっとそこで無い頭悩ませてろ。」

今の台詞にはツンという可愛さよりもどす黒い怒りのオーラの方が強かった気がする。
とにかく問診は失敗だ。
ナツはあわてて機嫌を損ねたグレイを見つめながら、今度は彼の身体をじっくりと視診した。

_あー、腰ほっせぇ。折れそうだなー。
はだ白いし、唇ピンクだし、あーもーまじ喰いた_

じゃなくて!!!!

己の忌まわしき欲望を慌てて制御すると、ナツは改めてグレイを凝視する。
そう、彼は先程から感じていた違和感に気がついていた。

それは、グレイの姿勢だ。

彼はギルドに大量に置いてあるロングテーブルに身を倒すようにして腰かけているのだ。
体になるべく負担がかからないように努力しているのか、頭は完全にテーブルと密着している。
まるで病人が一時の安らぎを得るかのような体勢にナツは再度頭をひねらせた。

なんだ?どっか悪いのか?

ツカツカ、と徐々に徐々に距離を縮めていけば気配を感じたグレイが慌ててこちらを振り向いたので、にかりと笑ってやる。
自分の表情で一番好きと言っていた顔を見せれば許してくれるかと期待を込めてみたが、そんなに甘くなかったようだ。

「.....そ、んな顔したって、許してやんねーから...!!!
もうしばらくはこっちくんなっ
ばーかっ....!!」

_あ、今のばーか、って。かわいい。


そんなことを考えれるくらいの精神の余裕がナツにはまだある。

なので、そろそろ実行にうつさせてもらうとする。

「え、?

は!!!?ばかっちょっ_!!!!!!」

「グレィイっ」

「ひゃっ!!!?ちょ、待てってば、!!

こら、ナツ!!!」

もう散々待ったと、ナツは内心拗ねながら呟いた。
問診でも視診でもグレイいわく、無い頭を捻らせて考えてみたが
結果は何も分からずに、だめ。
ならばもう触診しかないであろうと結局彼の背後から抱きつく形となる。

幅が狭い木製のロングチェアに無理矢理乗り込むと、その細い腰を抱き締めた。

刹那、グレイの顔が真っ赤に染まる。

_ん?

何かがおかしいと感じたナツが撫でるような動作で腹を擦ってやれば
グレイは勢いよくナツを背後へと突き飛ばした。

「うぎゃっ」

ゴッと鈍い音がして彼の頭が石製の地面へと叩きつけられる。
見るも無惨なその姿に、ギルドにいる仲間たちは哀れみの視線を向けた。
焦ったように肩で息をするグレイを後ろから睨み付けながら、ナツは大声で叩きつけるように叫ぶ。

「何っっなんだよお前!!!!
今日はいつにまして冷たいじゃ_」
「の、残ってるんだよ....」


「..........、

は?」


ボソリと弱々しく呟いたその声は聞き間違いではなかったか。

ナツが確認するように聞き返せば、頬を真っ赤に染めて瞳を潤ませたグレイが恥ずかしげにこちらを振り返ってきた。
あまり大声で言えない、と前置きをするから近くに寄ってやれば
こそりと内緒話をするように囁く。

「昨日のお前のが、まだ腹に残ってんだよ....あほ、!!!」

壊れ物を扱うように、腹部と腰をさすりながら照れるその姿に
ナツの心はキュンを通り越して
ギュンッと音を上げた。

昨日の。そして、腹部に残る。

といえばもうあれしかない。

ナツの脳内では昨夜の切な気な声を上げて乱れるグレイがムービーのように再生され、思わず口角が緩む。
そういえば、昨日は行為に必死で掻き出していなかったと、今更ながらに納得をした。
ガンガンとがっついたせいで腰も痛めてしまったのであろう。

なに、このかわいい生き物。

本当に自分と同じ人間なのかと疑いたくなるほどの恋人の可愛さに、ナツは鼻血を抑えるだけで精一杯である。

「おい、笑い事じゃねーんだぞ...!!!
これめっちゃ腰にクるんだから、いてぇのなんのって....!!!!!」

と、怒ったように自分の胸板を殴ってくるその手も、表情も、なにもかもが可愛くて、
気がつけばその身体を横から抱き締めていた。
本当は正面から抱いてやりたかったのだが、いつまでたっても身体をこちらに向けないものだから、我慢がきかなかったのだ。

ちゅ、ちゅと頬に軽いキスを数回落とせば、慌てて顔を押し返されストップをかけられる。

「ちょ、まっ、

なにやってんのお前!!!?
俺怒ってるっつってるし、
ここギルドだって!!!」

怒ってると言う割には弱々しい抵抗にナツはさらに頬が緩んだ気がした。
耳元に口を近づけると、痛むと言う腰を優しく擦ってやりながら囁く。

「悪かったって。
今日は一日看病してやるから、機嫌なおせよ。

な?」

ビクッと一度は驚いたように肩を跳ね上げたグレイだったがゆっくりと自らの腰を擦りあげるその手に心地よさを感じたのか、次第に抵抗力を縮めていった。その姿はまるで飼い主にすりつく猫のようで、ナツは内心にやつく。


「....次、こんなんやって、忘れて放置したら殺すからな.....!!!」

キッと涙を浮かべて睨む姿は
子供さえも微笑んでしまうほどに可愛らしかった。

本当はこうやってされて嬉しいくせに。

どこまでも素直じゃない恋人に優しく微笑みかけながら、ナツはしばらくの間ゆっくりと体を撫で付けてやった。







しかし、ナツ自称、鋼の忍耐はそう長くはもたなかったという。
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