イナGO

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ゴンゴンと耳に重い音をさせながら港から離れた。
ずいぶん遠いところに来てしまったと今さら不安になる。
私たちの住んでた所の近くに海なんて無かった。
不安から逃れるように揺れに合わせて徐々に白竜との距離を詰める。

「小春」
私が声をかける前に白竜に呼ばれた名前は、酷く不快な声に聞こえた。
サイレン。
不快な声でなく、サイレンがかぶっていたことに気付いて、反射的に危険を察知した。
恐怖から白竜に抱き付いて目をつぶる。
「ゴムボートに乗り込め!」
「急げ!急げ!」
船員達が誘導するのも切れ切れにしか聞こえない。
一番奥に居た私たちは揺れる船内で壁に叩きつけられた。
「小春大丈夫か!?」
白竜の必死な声にしっかりと手を握って応えた。

いよいよ船が沈み始めた。
そっと目を開けて、外に出るためにベンチをつたい歩きする。
と、同時になるべく多くの人数を乗せる為に所狭しと簡易的に並べられたベンチのボルトが外れる。
金属が擦れる音と共に、斜めになった船の壁に寄りかかっている白竜や私を含めた大勢子供にその椅子は襲い掛かってきた。

咄嗟だった。
白竜目がけて滑り来る鉄の塊。
それから白竜を守る為に私は白竜に覆い被さった。
腰に強く重い衝撃と痛み。
次の瞬間には沢山の悲鳴が聞こえていた。
もしかしたらそれは全て私の悲鳴だったのかもしれない。

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