イナGO

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シャワールームは2人の時間を唯一楽しめる場所だった。
監視カメラもなければ盗聴器もない。
「白竜、背中から転んだ?」
「痣になったか」
「うん。ちょっとね」
いつもみたいに背中を洗うのは苦痛をともなうようでやらないでいる。
「私が洗ってあげようか?」
背中を湯船に向けて座ってもらった。
ケロイド状の傷がいくつもあるその背中を泡で覆った。
今でこそ目立った大きな怪我はしなくなったものの、入った当初は実力など関係なく非道な訓練に翻弄され何度運ばれていたか。
「ありがとう」
スポンジを放した。
シャワーの熱い水が白竜の四肢を流れゆく。

綺麗だ

いつもながら優美な光景だった。
白く長い睫毛に乗る雫。
瞬きで落ちて頬を伝う。
唇の端に不時着。
舌が掬い取って口の中へ。

「いいなぁ」
思わず発する。
その口も白竜の強引なキスで奪われてしまう。

シャワーの音よりも大きく音を出して密着してゆく。
「これで満足か?」
ワインレッドのその目を見つめ続けた。
「もうちょっと」
「じゃあ湯船から出ろ、逆上せるぞ。」
引き上げてもらって私専用の椅子に座った。
「ほら、小春のしたいようにしろ」
しゃがませて触れるだけのキスをする。
「この先は白竜にはまだ早いよ」
互いの見慣れた体に甘酸っぱいような恥ずかしさは微塵もない。
それでもこの先は限界区域。
「待つぐらいなら今がいい」
先へ先へと急ぐ白竜を脆く思った。

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