tennis
□伝わる。
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小さな公園。そこに俺達は2人、ベンチに腰掛けていた。
『光ー』
「…………」
『ひーかーるー』
「………」
『光ってば!!』
「……なんや」
不機嫌面を、彼女である愛美の方へゆっくりと向ける。
すると、愛美はぷくっと頬を膨らましてこちらを睨んだ。
『………』
「………」
『あっ、ちょ、また本読み出すなっ!!』
「……だから、なんやねん」
俺は溜息をつきながら本を閉じ、つけていたヘッドホンも外して愛美を見た。
彼女が不機嫌な原因は、俺が呼んでも返事をしない事、相手をしてもらえない事、主にこの二つだ。
そして俺が不機嫌な原因は、至福タイムを邪魔された事と、先ほどから彼女が執拗に同じ質問を繰り返している事にある。
『だーかーら…私の事、好き?って聞いてるのっ!』
「そら、付き合ってるぐらいやし、好きやけど?」
『またそういう言い方……』
「何が不満やねん」
くぁ、と欠伸をすれば、愛美の頬が更に膨らんだ。そしてまた、話は振り出しへと戻る。
『私の事、好き?』
初めの内は恥ずかしがって、躊
躇いがちに聞かれていた言葉も、今となってはなんの抵抗もない。それに「好き」と答える俺にしても、もうかなり慣れがついてしまっていた。
「だから、好きやって」
『……嘘つき』
「嘘なんかついてどないすんねん」
『それでも………嘘つき』
膨らんだ頬は先ほどと変わらないが、その目は明らかに潤んでいる。少なからず、彼女は俺の言葉にショックを受けたのだろうと俺は少し後悔した。
「…なんでそんなに、落ち込んでるん?」
『なんでもなにも……』
ぽつん、と愛美が寂しそうに呟く。
『光、自分からデート誘ったり話しかけたりしてくれないし。告白はOKしてくれたけど、好きなのかどうかわかんないし』
「………」
『……私の事、嫌いなのかな…って」
どんどんと小さくなっていく愛美の声に、俺は溜息をついた。そして、そんな自分に怒りがわいてくる。
(別に、嫌いなわけじゃないんや)
ただ、それを言葉にして、ちゃんと好きって伝えてなかっただけで……。
って、それが今愛美を悩ませてるんやった。俺ってホント駄目な奴や。
『…………』
「…………」
沈黙が重
い。優しい言葉のひとつもかけてやれない自分が憎らしかった。
『……ご、ごめんね!』
「…へ?」
『迷惑だったよね光!なんでもないの!じゃあ、私帰るね!』
「待てや」
『………は、離し……』
とっさに掴んだ腕は、ちゃんと食べているのかと心配になるほど細くて。俺はまっすぐ愛美を見つめたまま、その腕を引っ張って引き寄せた。
『っん……!?』
唇を重ねて、それからすぐに離す。突然の行動に、愛美は真っ赤な顔を隠しきれずにいる。
驚くのも無理はない。付き合って半年以上は経つが、今までキスどころか手を繋いだ事すらなかったのだから。
「好きや」
『ひか、る?』
「俺は愛美の事が好きや。愛しとる」
『え、あ、あの……』
「………まだ、足りひん?
まだ、伝わらへん?」
『あ………』
慌てたように、愛美が喋る。
『え、あああの、ううんっ!?全然、大丈夫っていうか、嬉しすぎて…
…ってああ、だからその、私も、なんていうか……』
「うん、うん。
それで、愛美はどう思ってくれてるん?」
『へ?』
「……もう一回
、聞きたいんや」
『あ………
わ、私も、好き!愛してる!』
「……そっか」
ほっとしたように俺が笑うと、愛美も赤い顔を嬉しそうに緩めた。
伝わる。
(大好きやで、愛美)
→あとがき