好機逸すべからず 番外編

□『零崎軋識の人間ノック』
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「チッ……、毎回毎回鬱陶しい」


今日も今日とて私に送られてきた刺客の相手をして、ナイフについた血を振って拭う。

毎度のことながら、うんざりする。
私みたいな子供に刺客を送って成果を上げられないのなら、それなりの理由があると思うはずなのに、それなのに根気強く(?)刺客を送ってくる。
それは同じファミリーの時もあるので、コイツら馬鹿かと思ってしまうのも仕方ないと思いたい。


「っ、」


脇腹に痛みが走り、確認してみると見事に斬られていた。
いつやられたのかは分からないけど、とりあえず止血しておく。


「これは――」


「っ!?」


気配も何も感じなかった。
いきなり現れた人に、私はすぐさまその場を飛びのいて距離を取った。


「その年でこれだけの事をやってみせますか。そうですか」


着物を着たその人を、私は少し“知って”いた。
ただし、私が知っている“あの人”よりは、大分と、若いけれど。


「わたくしは闇口憑依と申します」


いきなり名乗ってきた憑依さんに、私は訝しむように眉根を寄せる。


「……人から名乗られた場合は自分も名乗るのでは?」


いつまでたっても口を開かない私に、憑依さんは言う。


「………………沢田、柚希」


「沢田柚希、ですか」


私の名を反復した憑依さんは、その場に膝をついた。


「貴女が乾きしときには我が血を与え、
貴女が飢えしきときには我が肉を与え、
貴女の罪は我が贖い、
貴女の咎は我が償い、
貴女の業は我が背負い、
貴女の疫は我が請け負い、
我が誉れの全てを貴女に献上し、
我が栄えの全てを貴女に奉納し、
防壁として貴女と共に歩き、
貴女の喜びを共に喜び、
貴女の悲しみを共に悲しみ、
斥候として貴女と共に生き、
貴女の披露した折には全身をもってこれを支え、
この手は貴女の手となり獲物を取り、
この足は貴女の脚となり地を駆け、
この目は貴女の目となり敵を捉え、
この全力をもって貴女の情欲を満たし、
この全霊をもって貴女に奉仕し、
貴女のために名を捨て、
貴女のために誇りを捨て、
貴女のために理念を捨て、
貴女を愛し、
貴女を敬い、
貴女以外の何も感じず、
貴女以外の何にも捕らわれず、
貴女以外の何も望まず、貴女以外の何もない、
ただ一言、貴女からの言葉のみ理由を求める、
そんな惨めで情けない、貴女にとってまるで取るに足らない一介の下賤な奴隷になることを――ここに誓います」


「………は?」



 
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