□80000hitリク!「霧雨」
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 霧雨の降る中。

 七緒が肩を震わせて、声を押し殺して泣いていた。

 その時、春水は彼女を慰める術を知らず、霊圧を消し、彼女の視界に入らぬ場所で、彼女を見守り佇んでいた。



「申し訳ありませんでした」
 春水に深く頭を下げる七緒。
「隊長より託された部下を、皆生還させる事もできず…」
「…謝る相手が違うんじゃないのかな…」
「…はい」
 春水は七緒を見る事無く、背を向けたまま低い声で七緒へと問い掛ける。頭を下げている七緒の額には白い包帯が巻かれ、血が滲んでいた。
「……始末書。出しといて」
「はい」
 春水は必要最低限の指示だけをすると、一番隊へと報告へ赴いた。
 七緒は、頭を下げたまま春水を見送り、完全に姿が見えなくなってから漸く頭を上げ、席につき、筆を取って始末書を書き始めた。
 春水が戻った頃には、既に完璧な書類が机の上に並べられていた。七緒は、別の書類に目を通し、仕事を続けている。仕事に没頭せねばやり切れないのだろう。額に巻かれた包帯の血の滲みが広がっているのは、春水の気のせいではない。痛むのか、時折そっと指で触れるが、直ぐに書類に目を戻す。
「…七緒ちゃん、四番隊へ行っておいで」
「いえ…これくらいは…」
「…隊長命令」
「…はい。畏まりました…」
 春水が席に着きながら、ちらりと七緒を見やり命令すると、七緒は一瞬眉を寄せ、頭を下げ命令を受諾し、立ち上がり、そのまましっかりとした足取りで出て行った。

「……参ったね…どうも…」
 出て行った七緒の後ろ姿を見送り春水は呟く。笠を目深に被りなおし、だらしなく椅子に座り、足を組む。
 春水ともあろう男が、女一人慰められぬとは。
 自嘲の苦い笑みがもれた。
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