□107701hitリク!「疲労」
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「……はぁ、駄目だわ…」
 七緒は眼鏡を外して指先で目頭を押さえた。
 疲れもあって、書類と向き合っていると、目蓋が重くなってくる。軽く身体を動かしてみたりもするが、それで睡魔が消えるような段階ではないらしい。
「…少し寝よう。仮眠を取った方が能率があがるわ」
 書類を丁寧に纏め置き、長椅子へと移動し身体を横たえた。眼鏡を卓の上へ置き目蓋を落とすと瞬く間に眠りに落ちていった。




「七緒ちゃん、いるの?」
 春水がひょっこりと顔を覗かせる。何時まで経っても探しに来ない七緒を待ちきれず、自ら執務室へと戻って来たのだ。
 返事はないが、七緒の気配はある。また怒らせたのかと思い、机を見るが、そこには書類の山が残されているだけ。七緒はと室内をぐるりと見渡せば、珍しい場所にいるではないか。
 長椅子に横たわっている七緒を見つけ、春水はそっと側による。具合でも悪いのかと思ったが、規則正しい寝息が聞こえ、ただ眠っているだけなのだと解った。
「七緒ちゃん?こんな所で寝てると風邪引くよ?」
 肩を揺り動かし起してみるが、春水だからなのか、それとも相当に疲れているからなのか、全く起きる気配がない。
「…やれやれ、仕方がないね…」
 春水はそっと七緒の身体の下に腕を入れ持ち上げる。それでも尚、起きる様子は見られない。
「……随分疲れているのかな?」
 呟き、七緒を部屋へと連れて行く。


 寝台へと横たえ、布団を掛けようとすると、何かが引っかかった。
 引っ張られている部分へと目を移すと、七緒が何時の間にか春水の着物を掴んでいた。春水は微笑を浮かべ、そっと七緒の指を開いて着物を離させる。
 それでもやはりまだ目は覚まさない。


 春水はそっと布団を掛けると、部屋を出て行った。
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