鬼畜眼鏡な部屋。

□酒と欲情。
1ページ/2ページ



「おい、起きろ克哉。着いたぞ。」
「うぅん…。」

 一台のタクシーがとある高級マンションの前に止まる。そこから出てきた男は、ふらついているもう一人の男の肩を優しく抱きかかえると、足早にマンションの一室へと消えていった。

「克哉…大丈夫か?ほら、そこに座れ。今水を持ってくる。」
「…ふぁい…。」

 御堂はそう言って克哉をソファに座らせると、台所へと足を向けた。コップになみなみと水を注ぎながら、ソファに座る克哉を眺める。彼は意識がはっきりしているのかしていないのか定かではなく、ただぼんやりとしていた。御堂は大きくため息をつくと、コップを手に克哉の下へと戻った。


 ことの始まりは、御堂の部下が克哉の歓迎会を開こうなどと言い出したことにあった。先月キクチからMGNへと移ってきた克哉だが、異動の処理やプロトファイバーの売り上げを安定させることで忙しかったこともあり、なかなかそういう機会に恵まれなかったのだ。そして、その歓迎会があったのが今日。当然、主役である克哉のグラスが空くことはなく、上司としてその席に呼ばれていた御堂も部下の勢いに流され、克哉を諫めるどころか話しかけることもできなかった。なんとか『家が近いから』と言って連れ帰ったものの、そのときには既に克哉は酔いつぶれていたのである。


 御堂は、目の前で水を一気に飲み干そうとする克哉を申し訳ない思いで見ていた。もちろん、克哉に酒を勧める部下を止められなかったこともあるが、それより今自分の中で渦巻いている感情が問題なのだ。
 『克哉に欲情している』
 一言で言えばそれで終わりである。克哉は今、目は潤み頬は紅潮し、勢いよく飲もうとするあまり水が口の端からこぼれ出ていた。ゴクリ、と御堂の喉が鳴る。しかし酔いつぶれている相手を抱くことなど、彼のプライドが許さなかった。
 水を飲み終わった克哉は、ふぅっと一息つくと再びソファに沈んだ。

「克哉、もう今日は着替えて寝ろ。」
「はぁい…。」

 返事をしたものの克哉は一向に動く気配がない。御堂はまた小さくため息をつくと、克哉の寝巻きを取りに行き、その場で着替えさせることにした。

 ワイシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。徐々にあらわになる克哉の肌に、御堂の理性はすでに限界が近づいていた。やっとの思いでボタンを全て外し終わり一安心した御堂だったが、事件はそこで起こった。

「御堂さん。」

 不意に名前を呼ばれ顔を上げると、そこには満面の笑みの克哉がいた。

「どうした、酔いが醒めてきたか?」
「御堂さん…好きです。」

 そう言って克哉は御堂に告白するなり抱きついてきた。

「なっ!うわっ!ちょっと待て、克哉!」

 その勢いで床に押し倒された御堂は突然の形成逆転にとにかく焦っていた。ただでさえ理性が危ないのである。これ以上何かをされれば抑えられる自信がない。そう思って克哉を押しのけようとするものの、さすが元体育会系だけあってびくともしない。克哉は力強く御堂を抱きしめたまま、耳元で囁いた。

「好きです、御堂さん……愛してます。」
「……っ!!」

 御堂は自分でも顔が紅潮していくのがはっきりとわかった。普段滅多にそんなことを言わない克哉だけに、耳元でこんなに甘く囁かれるなど予想だにしていなかったのである。そんな様子の御堂を知ってか知らずか、克哉は一度だけ御堂に軽く口付けすると、今度はこう囁いた。

「…今日は俺が御堂さんを気持ちよくしてあげますよ…。」
「か、克哉っ!?」

 言うが早く、克哉は手際よく御堂のワイシャツを脱がし始めた。

「待て、克…哉………ふぅ…」

 克哉は手ではシャツを脱がしながら、再び御堂に口付けをした。しかし今度は深く、甘く……舌を絡め取り歯茎をなぞり、唇には軽く甘噛みをする。ふと、一体どこでこんなことを覚えたのかと思った御堂だったが、これは全部自分が克哉にするキスと同じだということに気付くと更に顔を紅くした。

「あっ……。」

 そんな思考をしている間に、不意に唇が離された。一瞬惜しむような声を出してしまった御堂だったが、その声に自分で羞恥心を覚えてしまう。離された克哉の唇は、御堂の体を下へ下へと下っていく。
 首筋、胸、腹、臍―――
 そうしてとうとう克哉は御堂のベルトに手をかけた。御堂のそれは今まで我慢していた分、既にはちきれんばかりに自身を誇示している。

「克哉…っ!だめだ…そんなことしたらっ!」
「大丈夫ですよ…責任はちゃんと取りますから…」
「ぅあっ…!」

 一気に引きずりおろされたズボンの中から、とうとう御堂のそれが出てきた。急に冷たい空気にさらされたことで、御堂は一瞬身震いをする。克哉は愛しそうにそれを眺めると、突然それを口に含んだ。

「…ぁあっ!克哉っっ!!」
「御堂さん…かわいいです……。」

 自分の愛撫に感じてくれて満足したのか、克哉は口に含んだまま嬉しそうに微笑んだ。口に含んで上下に動かし、時折舌を使って丹念に舐め上げる。

「…ぁう…ん……ふぁ……。」

 いつしか室内にはピチャピチャとした水音と御堂の喘ぎ声だけが響くようになっていた。御堂も、克哉と同じように頬を紅潮させ目を潤ませ、与えられる快感を必死で受け止めていた。そんな自分の様子を見て嬉しそうな克哉にも興奮し、何度もイってしまいそうになっていた。

「克哉……ぁ…もういい……このままだと…。」
「いいですよ、イっても…。」

 克哉はそう言って愛撫をやめようとしなかったが、御堂の手がそれを無理やり制止した。その行動に、子供のようにさも不満そうな顔をする克哉を見て御堂は苦笑すると、突然起き上がり克哉を抱き上げた。

「御堂さんっ!?何を!?」
「決まっているだろ、責任を取ってもらう。」

 ニヤリと笑って御堂はそう言うと、克哉をベットの上に降ろした。その勢いでスプリングが激しくきしむ。

「だ、だめです!今日は俺が…あっ!」
「ほら…君だってもう限界なんだろ?」

 反抗しようとした克哉のそれを、御堂はズボンの上から緩く触る。それでも克哉の身体は敏感に反応した。満足げに微笑んだ御堂は、一気に克哉のズボンを引きずり下ろすと、先ほどから一向に萎えていない自身のそれを克哉の後ろにあてがった。ことの性急さに、今度は克哉が焦る。

「み、御堂さんっ!!」
「責任…取ってくれるのだろ?」

 そう克哉の耳元で囁くと、御堂は克哉の中へと腰を進めた。

 翌朝、克哉は布団の中で頭の痛みと腰の痛みに呻いていた。目覚めてみると、自分は御堂の腕の中にいて、激しい頭痛とけだるい体の疲れがある。始めは理由が分からなかったが、徐々に昨日の記憶が蘇ってくると、とてつもない羞恥心が襲ってきた。昨日自分は御堂に抱きついて耳元で告白して、それから…自分から進んでやって……そのあとは…。煙が出そうなほど急激に顔が紅くなる。そう、あのあと御堂に何度も何度も激しく抱かれたのである。酒の勢いというのは全く恐ろしいものだ。

 御堂はまだ寝ている。ふと、喉が渇いたので御堂の腕を抜け出そうとしたとき、突然強く抱きしめられた。

「酒というのは恐ろしいものだな…。」
「…おはよう…ございます……。」

 克哉はごまかすために挨拶をする。御堂はそんな克哉を見て喉の奥でクツクツと笑うと、克哉の顔を間近に引き寄せてこう呟いた。

「今後、私がいないところでは絶対酔わないように。本多や片桐の前でも禁止だ。だが…私だけの前ならいくら酔ってもかまわないから安心したまえ。」
「もう…御堂さんてば……。」

 御堂はそんな克哉を愛しそうに目を細めてみると、そっと触れるだけのキスをした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ