鬼畜眼鏡な部屋。

□heat treatment
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「……8度3分」

克哉は小さなディスプレイを眺めてため息をついた。
昨日、帰宅途中にどしゃ降りにあったのが響いたのだろうか。
確か疲れていたから適当に体を拭いただけで眠ってしまったはずだ。

「会社に連絡しないと……」

いくらなんでもこんな状態では仕事にならない。
克哉はぐらつく視界で携帯を見つけると、それを取ろうと身体を起こした。
しかし、

「……ッ」

襲い来る頭痛。
力の入らない身体。
流れのままに、克哉は再びベットに身体を沈めた。
仕方なくその状態から手を伸ばすが、ギリギリのところで届かない。
何度も身動ぎをしては手を伸ばし、ようやく届く――そのときだった。

「あっ」

一瞬の出来事に思わず驚きの声をあげる。
目前で携帯を取り上げた人物は、手慣れた様子で電話を掛け始めた。

「……もしもし、本多か?悪いが、今日は体調不良で休むと片桐さんに伝えてもらえないか。……あぁ、そうだが……いや、お前が来ると悪化するから来なくていい。じゃあな」
「<俺>……」

『なぜいるのか』『いつからいるのか』『どうして来たのか』――
普段の克哉なら考えるところだが、あいにく今日はそんな気力など毛頭ない。
むしろ、代わりに連絡してくれたことに感謝していた。

「全く……体調管理ぐらいできなくてどうする」
「ごめん……」

ため息をつきながら携帯を元の場所に戻す<克哉>に、思わず克哉は謝る。

「何か食べたのか?薬は?」
「まだ何にも……」
「俺がいなかったらどうするつもりだったんだ」

<克哉>は再びため息をついた。

「飯ぐらい作ってやるから、おとなしく寝ていろ」
「……うん、ありがとう。<俺>って本当は優しいんだな」

あまりに親切な彼に少々驚いたものの、少しでも感謝の意が伝わるようにと克哉は精一杯微笑む。

「俺が優しい?」

一瞬<克哉>は目を見開いたが、すぐに不敵に口元を歪めた。

「そうだな……本当に俺に感謝してるなら、薬ぐらあ自分で入れろ」
「『入れる』?」

『飲む』の間違いなのでは、と思った克哉だったが投げられた薬を見て、開きかけた口をつぐんだ。

「じゃ、『優しい』俺は粥を作ってきてやるから、お前はちゃんと自分でできることはやっておけよ」

そう言い残して<克哉>は台所へと消えた。
克哉の手に『座薬』を残して……



「ん……」

パジャマも下着も脱ぎ、克哉は腰を高く上げて薬を入れようとしていた。
早く入れなければ、戻ってきた<克哉>に何をされるかわからない。
しかし、そう上手くいかないのが現実である。
熱で力の入らない体に鞭打って先程から腰を高く上げ続け、慣れないことに手もとも頼りない。

「……ッ、ふぅ……」

ようやく先端が入り口にあたり、思わず安堵の息を洩らす。
汗がしたたり落ち、そろそろこの体勢も限界である。

「早く、入れないと……」

そう思うものの、なかなかあと一押しができない。

「なんだ、まだ終わってなかったのか?」
「うわぁ!」

突然降ってきた声に、驚いた克哉は思わず薬を落とした。
<克哉>はニヤニヤしながらそれを拾うと、崩れそうになっている克哉の腰を抱え上げ再びあてがった。

「俺がいなかったらどうするつもりだったんだ」

同じセリフのはずなのに、先程とはずいぶん声音が違う。
本能的に抵抗しようとする克哉だったが、それはあまり意味をなさなかった。

「離、せッ!」
「何を言っている。お前ができなかったから、俺がやってやろうとしているんだろ?」

『それともお前は俺にやってほしかったのか?』
後ろから優しくのしかかられ、耳元で囁かれた言葉に克哉は赤面する。

「そんなわけ……つッ!」

反論しようとした克哉を再び目眩が襲う。

「ほら、これは薬なんだ。おとなしくしておけ」
「あッ」

すぐさま射し込まれた座薬に、克哉は思わず身体をピクリと震わせた。
少しずつ沈んでいき全て入ったとき、克哉は安心して身体の力を抜いた。
だが、

「ひぁッ!ちょっ、と待ってッ!」
「なんだ?なるべく深く入れたほうが治りも早いだろう」

一気に指まで入れられ、<克哉>はそのままぐちゅぐちゅと動かし始めた。

「や、ぁん……ふぅ……」

的確な攻めに克哉は自然と喘ぎ声を洩らし、気付けば自ら腰を揺らしていた。
そんな彼に満足したのか、<克哉>は指の本数を増やしていく。

「ん……くぅ…あ、…はぁ」
「お前のここ、もうこんなになってるぞ」
「あ、やッ……そっちは!」
拒む克哉にも関わらず、<克哉>はもう片方の手で前をきゅっと握る。
既に大きくなり先走りを滲ませているそこに与えられた新たな刺激に、克哉はより大きな嬌声をあげた。

「知ってるか?熱が出ているときはセックスして熱を発散したほうがいいらしいぞ」
「まさか……っ」

克哉が息をのんだ瞬間指が引き抜かれ、代わりにもっと質量の大きく熱いものが入ってきた。

「あぁぁッ!!」
「やはり、熱いな……」

耳元に熱を帯びた息がかかる。
<克哉>のものにより、溶けかけていた薬がより奥まで入ってきた。
そのまま、なるべく激しくならないように<克哉>は腰を動かし始める。

「や、ぁッ……なんで、そこばっかり…!」
「ここが、いいんだろう?」

確実に<克哉>は感じるポイントばかりを攻め、克哉は早くも限界を迎えていた。室内に熱気が漂う。


「もう、だめ……ッ!」
「まだ、だ」

<克哉>はそういうと、克哉のものの根本を握り締めた。

「ん…あぁ!そ、んな!」

苦しそうな表情で克哉が首を後ろに向けた。
瞳は潤み、頬を上気させて必死に限界を訴えている。
そんな彼に<克哉>は息をのむと、打ち付ける腰を速めた。

「ふッ、ぅ、あぁ!」
「……っ!イくぞ」

背後からの切羽詰まった声を耳にした途端、克哉のものを締め付けていた手が離された。

「あぁあぁぁッッ!!」
「くっ……」

身体から出ていく熱と、そのまま体内に流れ込む熱を感じながら、克哉は意識を沈めた。



「……つッ」

寝返りを打とうとした克哉は、腰に走った鈍い痛みに目を覚ました。
頭痛や身体の怠さはまだ消えていないが、先ほどよりましになっている気がする。
ふと気が付いて片割れの姿を探したが、どこにも彼の気配は残っていなかった。
しかし、サイドボードにはしっかりとまだ湯気のたつ粥の入った椀と書き置きが残されていた。



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