鬼畜眼鏡な部屋。

□MGNの社内事情
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○月△日

今日の帰り際、明後日の出張について御堂部長にお話しに行った。
あの部長と一泊二日で出張なんて恐ろしい気もするが、これを期に部長と少しでもお話ししやすい間柄になっておきたいと思う。
そんなことを考えつつ部長の部屋へ向かっていると、ちょうど帰り支度をした御堂部長に会った。
隣には最近入ってきた佐伯君がいる。
彼はなんでもあの御堂部長が認めて我が社に引き抜いた営業マンらしく、その影響かよく部長と一緒にいるようだ。
御堂部長も彼にはどこか態度が違うという噂もあるが、俺はそれが信頼関係によるものだと思っている。

「あの、御堂部長。明後日の出張の件なんですが」
「あぁ」

俺は早速用件を伝えるべく、部長に話し掛けた。
御堂部長は何か佐伯君に耳打ちをしたが、佐伯君はふるふると首を降っている。
なんだか俺には「先に帰ってろ」と言ったように聞こえたが、たぶん気のせいだろう。
その後も二言三言言葉を交わして、ようやく御堂部長は俺に向き直った。
佐伯君は隣にいたままだ。

「で、何かトラブルでもあったのか?」
「トラブル……といえばトラブルなんですけど……」
「どうしたんだ?」

言葉を濁す俺に、明らかにイラついている御堂部長。
だがこれは少し言いにくい問題である。

「あの、事務の子がホテルの予約で少し……ミスをしまして」
「ミス?」
「えっと、それが……『シングル二部屋』ではなく『ダブル一部屋』で予約してしまったそうで……それでどうも他の部屋もいっぱいで変更できないらしいんですよ。でも近場のビジネスホテルはそこしかなくて」
「なんだ、それくらいなら――」
「変えてください」

納得しかけた御堂部長の言葉を遮って、佐伯君が口を開いた。
思わず俺も御堂部長も佐伯君を見る。
佐伯君は少し目もとを鋭くして俺をじっと見ている。

「なんとしても変えてください」

もう一度佐伯君は同じ言葉を繰り返した。

「だから他の部屋はいっぱいだと――」
「ビジネスホテルは無理でもカプセルホテルならあるんじゃないですか?」
「いや、でも近場には――」
「なら先輩だけカプセルホテルに行けばいいじゃないですか。重要役職の御堂部長が会議に遅れるようなことがあれば困りますし」
「俺が遅れたら――」
「あ、それとも先輩は御堂部長と同じ部屋に泊まりたいんですか?同じベットで寝たいんですか?」
「ま、まさかそんな恐ろしい――」
「本当のところどうなんですか?」
「落ち着きなさい佐伯君」

見兼ねた御堂部長が佐伯君を止めに入った。
俺は、普段の温厚な彼と今のマシンガントークの彼とのギャップに開いた口が塞がらない。
子供のように不貞腐れていた佐伯君だったが、また御堂部長に何か耳打ちをされて機嫌が納まったようだ。
だが今度は顔を真っ赤にしている。
御堂部長はコホンと咳払いをすると、真面目な顔を俺に向けた。

「というわけだ。君はカプセルホテルに泊まりなさい」
「……は?」

御堂部長、あなたさっき同じ部屋で納得していたじゃないですか。

「まぁ、よく考えてみればまだカプセルホテルという手段があったわけだしな。何も無理に同じ部屋に泊まる必要はないだろう」
「……わ、わかりました」

俺はやっとのことで返事をすると、早々に予約をするべくそこから立ち去った。
あの御堂部長に簡単に意見を通すなんて……やはり佐伯君はあなどれないようだ。



END.
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