僕に墜ちることは許されていない。僕は天使という部類尚且つ親衛隊隊長という重大な役職に就いており、僕自身が墜ちていってしまったら回りの天使も墜ちていく、これは過言ではない。だから毎日僕はパルテナ様に遣え親衛隊隊長として善の行為を行っている。少なくとも、墜ちるなど。言語道断に等しいその単語をじっくりと味わうように咀嚼してから僕は毎日仕事に就く。そうでもしないと墜ちていってしまいそうだった。

(夢を見る。僕の羽に苔がびっしりと生えていてそこから腐敗して行く、僕は落ちたのだ。元々上手く飛べはしなかったけれどもうそれは羽の原型を留めてはいない。腐った羽を布団にして蛆虫が沸いていく中で僕は羽をちょんぎるんだ。背中からもげたそれは墜ちていく僕を嘲笑うかのように見詰めていた。墜ちていく僕の頬に、黒い滴が一滴、落ちた。)

 汗でぐちゃぐちゃになった額を拭って急いで羽を確認する。いつも通りの純白の天使のものであった。あの夢のようにいつか無くなってしまうのなら、自分でおさらばしたほうが良いのだろうか。

(用意するものはペンチに血皿に苔と黴の細胞にミトコンドリア)

 一枚引き抜いた羽ははらはらと儚げに床に舞い降りていく。この中に自分の神経が通っているなんて考えたくもなかった。いっそ僕とこいつらを違う生き物にしてくれれば良かったのに。そうでもしないと、別れが、別れの後が、(とても虚しすぎるから。)

(やっぱり僕にはさよならする勇気なんか無かったんだ。だからペンチを離せ、血皿を退けろ、はやくはやく羽と僕を繋げ直すんだ僕の腕!)


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