03/13の日記

01:24

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☆矢の妄想、夢小話。名前変換不可です。










哀しき冥府の王は「愛」を知らぬ故に奪うことしかできなかった。

絶対的な神の力をもって、全てのものを支配下においた。


そうすることで全てを得たと感じるのだ。



この哀しき冥府の王に、地上を統治する女神アテナは「愛」を語る。

だか、奪う事しか知らない冥府の王に理解できるはずがなかった。

しかし、いかに冥府の王といえど「心」をもっていた。奥に潜んでいる「愛」というものへの執着だけは拭い去ることが出来なかった。









−聖域−


一人の女性が草花、動物に囲まれ静かに読書をしていた。

本にしおりを挟み、足元に置くと小鳥と会話する。


この女性の名はルージュといい、240数年前の聖戦の生存者であり、教皇シオンと老師童虎の先輩にあたる元黄金聖闘士。そして慈悲の女神アイドスの化身で特異能力「千里眼」を有し希少種あつかいをされていた。



教皇の間の脇を抜けた草花が咲き誇るこの場所は、まるで次元が違うように澄み渡る雰囲気を醸し出し「聖域のエリシオン」と呼ばれおり、ルージュの庭でもあった。後ろからは十二宮が見渡せ、もしもの事があったとき黄金聖闘士たちが駆け付けられるようになっている。






「今日は…何かありそう」




小鳥を肩に乗せ微笑むが、その深紅の瞳の奥は不穏を感じさせる。

ルージュに応えるように小鳥たちも羽ばたいてしまった。それを目で追い、そのまま空を仰ぎ瞼を閉じる。



なにかが、自分を含めこの聖域を奮い立たせている。この不安は教皇シオンを始め、黄金聖闘士にも伝わっているだろう。


ルージュは真っ直ぐ自分に向かって来る「気」に瞼を閉じながら迎えようとした。


不穏な小宇宙を感じた身体は今や震えを消しさり、慈しみへと変わっているのだから…。むしろ、後に来るであろう勇敢なアテナの聖闘士たちを制することのほうが大変かもしれないと苦笑する。









「…来ましたね」



静かに呟きルージュは瞼を持ち上げる。

それと同時に眼前の美しい景色が暗黒の歪みへと変化し、一台の黒い馬車が現れた。


馬車はその場に静かに降り立つ。ルージュは黙って、しかし微笑みながら馬車の主を待った。


カチャリと開かれた戸から漆黒の法衣に身を包み、無心を思わせる澄んだ瞳を宿す冥府の王が現れる。


冥府の王ハーデスはルージュを見下ろす。ルージュはハーデスを見詰めた。





「…どうされました。冥府の王ハーデス」

「戯れだ」

「…お供も連れずに?」

「供など、いらぬ」

「左様でございますか…」

「…」

「…」




ルージュは小さく微笑み、途中であった本を再度開いた。それをハーデスは不思議に見つめる。




「何故、何も聞かぬ」

「………貴方から何を聞けばよいのでしょう」

「理由を聞かぬのか」

「理由なら、先程聞きました」

「本気にしたのか」

「はい。戯れに来たのでしょう?」

「そうだ。戯れに来た」

「…その戯れに聖域をお選びになっただけのことです」

「………」



本からハーデスへと視線を戻し、ルージュは微笑みながら素直に思ったことを口にする。

それをハーデスはますます不思議そうにルージュを見詰めた。



「…協定を結んだとは言え、余はそなたらの敵…冥府の王なるぞ。何故、そちは何も言わぬのだ?今もそち以外の者はうろたえておるぞ」

「…私は貴方様を信じておりますゆえ…」

「?信じる?」

「はい」

「………わからぬ」



ハーデスはルージュの目の前まで移動しその顔…姿、全てを見通そうと見下ろす。ルージュはその澄んだ瞳を見つめ返し微笑む。



「…そなた…」

「はい」

「余のものになれ」

「…」

「どうした。返事せぬか」

「…」



微笑むルージュから返事がこないことにハーデスはしゃがみ込み顔を覗き込む。

ルージュの顔は目を伏せ長い睫毛が影をつくり、どこか悲しげであった。



「…何故、そのような顔をする」

「…」

「何か申せ」

「…」

「余に逆らうのか」



ハーデスはルージュの頬を優しく撫で顎を掬い取る。

視線を合わせようとしたのだ。

だがルージュは虚ろな瞳でハーデスを見詰め返した。

その瞳にハーデスは言われぬ不安を感じるのだが、生まれた感情が「不安」というものであると理解しているのかは謎であった。



「…冥府の王ハーデス」

「……なんだ」



ルージュは静かにハーデスを呼び、その虚ろなる瞳を今度は暖かな慈愛に満ちた瞳に変え、微笑む。

その変化にどこか息をつくハーデス(自覚なし)





「……可哀想なヒト…」

「なんだと?」

「貴方は可哀想だと言ったのです」

「…」

「愛を知らぬが故に、愛を求める。愛を求めるということは愛するということを知らないから…。貴方がここへ来たのは愛というものを確かめたかったからでありましょう?」

「………黙れ」

「反抗は肯定も同じです」

「黙らぬかアイドス」

「…私はルージュ。アイドスではありません」

「人間など愚かだ。そなたも神の化身であるなら人間など捨てよ」

「…その人間に貴方自身、恋焦がれているのではありませんか?」

「人間など、悪事ばかりをしてこの地上を汚す害虫なのだぞ」

「…貴方が人間の愚かさしか見ないのは…貴方が貴方自身を本当に愛していないからです」

「余は誰よりも余を愛しているぞ」

「いいえ。それは貴方の強がりです。貴方は本当に愛され愛したことがないから、そう思いたいだけ…」



気付いたときはハーデスの顔が目の前にあった。

その漆黒を纏った冥王に不釣合いに空は澄み渡っている。



「……素直になってはいかがでしょう…」



ルージュは今にも自分を喰らってしまいそうなハーデスの首に腕を回し引き寄せた。

突然のことにハーデスはルージュに倒れこむ。

ルージュはふさふさした漆黒の髪の毛を撫でつけ、頬擦りをする。そして、その漆黒の髪に顔を埋める。

ルージュの行動一つ一つがハーデスにとって混乱するものばかりであった。

次々に生まれてくる感情についていけず、真横にあるルージュの顔を何かを確認するように覗く。

もの凄く近いハーデスの顔に微笑みながら、ルージュは小さく呟く。



「…温かいでしょう…」



ハーデスは返事をせず、代わりにルージュの肩に額を擦りつけた。

その反応だけで十分だとルージュは微笑む。




−愛を知ることは難しいことです−

−…うむ−

−愛に、同じ愛などありません−

−…うむ−

−貴方が今、感じるそれが愛であることもあります−

−……そうか…-

−はい…−







*****


教皇シオンの命で「聖域エリシオン」に出向いた黄金聖闘士。


黄金聖闘士が見たものは温かい日の下で、草花と動物に囲まれながら、抱き合い眠る冥府の王と聖域のご長寿様であった。


冥府の王の表情は見れないが、彼女の安らかな寝顔を見る限り、冥府の王の心を射止めたことが理解できたのだった。




END



うーん。なんか解りません;;

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