03/21の日記
23:10
パロ
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クラウド+ティナ
部員の威嚇する掛け声、竹刀が交わる音、道場を通して外に響き渡っていた。
今日の剣道部は他校との合同稽古であった。
相手高校の剣道部は個人・団体戦ともに優秀な成績を残すほどの強豪高校である。
クラウドの所属する剣道部とて決して弱小ではない。学校をあげての成績はないものの、個人成績はいくつかとっているのだ。
中でもクラウドは顧問のセフィロスに認められるほどで、剣道部の期待の星であった。だが、精神面の弱さが目立ってしまい波があるのだった。
当たり稽古が終了し、20分の休憩が与えられる。
「休憩後、練習試合をする。十分に水分補給するなどしておけ」
顧問の一言で、部員達はそれぞれ散らばった。
クラウドはタオルを持って外にでた。近くの水道は他の部員達が群がり、顔を洗うなど騒いでいた。
仕方ないとクラウドは少し離れた水道場所まで足を進める。
ふと、甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「…」
道場と調理室が近いことを思い出し、クラウドは香りがするほうを見遣る。
距離はあるものの、ガラス越しの調理室内には想いを寄せる少女の姿。
ティナが調理室に通うのは料理の腕をあげたいのと、趣味のお菓子作りのため。部活というよりはクラブのようで、食材を買っては許可を得て調理室を使用させてもらっているのだ。
何を作っているのか知らないが、匂いからしてお菓子なのだろうと、ぼんやり思うクラウド。
別に用事はない。だが、このまま立ち去るのも納得いかない。さて、どうしたものかと目を伏せた時だ。
「クラウド!」
「…ティナ」
伏せた目を上げれば、窓を開けて微笑むティナ。彼女のほうから声をかけてくれた。
得をしたような情けないような、クラウドは苦笑しながらティナがいるほうへ歩む。
顔を付き合わせて会話しているのに、クラウドの視線、少し上に位置するティナに違和感を覚えた。ティナは室内、クラウドは外にいるのだから段差があって当然なのだが…。
「休憩中?」
「ああ。あんたは…また何か作っているのか?」
「ええ。マドレーヌを…」
「…甘そうだな」
「そう思って、甘さを控えてみたの。ちょうど出来たところなんだけれど…クラウド、食べないよね…」
ティナは胸に手をあて苦笑する。
クラウドはティナの様子に引っ掛かりを感じ、応えた。
「……あんたが作ったんだ。食べるさ」
「クラウド…」
「休憩が終わる前で、良かった」
「ありがとう。持ってくるね」
ティナは嬉しそうに微笑みながらパタパタと包んだマドレーヌが置いてあるテーブルに向かう。
その後ろ姿にクラウドは安堵とともに笑みがこぼれた。
ラップを剥がしながらティナはクラウドのいるほうへと戻る。暖かいマドレーヌをクラウドに差し出した。
「はい、どうぞ」
「ああ。」
ティナからマドレーヌを受け取り、一口する。口に広がるほのかな甘味をクラウドは不快に感じなかった。
一口したクラウドを心配してティナは声をかけた。
「クラウド…どうかしら」
「…ちょうどいい甘さだ」
「よかった…」
本当に嬉しかったのか、ティナは両手を握り締めて笑う。
クラウドにしてみれば、ティナの作ったものがどんなものであれ不味いわけがないと信じて疑わないでいる。
しかし目の前にいる少女はそんな些細なことを気に留めるのかと、こそばゆくなった。
「ティナ。」
「?」
「これから練習試合があるんだ。対戦相手は強豪高でもある」
「ぁ、ごめんなさい……。マドレーヌなんて…甘いの…」
「そうじゃない」
「クラウド?」
これから強豪高とぶつかり合うということは激しく激突するはず、それなのに甘いものを食させてしまったとティナは俯く。いくら練習試合といえ、クラウドは期待の星で負けてチームのモチベーションが下がるようなことがあってはいけない。
ティナの気持ちを察したのかクラウドは訂正するようにティナに言葉をかける。
ティナはクラウドに向き直る…自分を見詰める蒼い瞳がとても真剣で、逸らせなかった。
「あんたが、自分を責めるなら、俺は…あんたが自責する必要はないと証明する」
「…クラウド」
「見ていてくれ」
クラウドはティナの返事を聞かずに、道場へと戻って行った。
あまりに真剣に言われたものだがらティナはどう返答してよいか解らなかった。ただ、一つだけ感じるのは胸の鼓動が速くなったということ。
道場に戻り、防具を身につける最中のクラウドは部活が始まった時よりも清々しさを感じていた。
何故、ティナにあんなことを言ったのか、クラウド自身が一番驚いていた。
この気持ちがなにを意味するのか、今は考えるべきじゃない。だが、どうしてか…負ける気がしなかった。
ティナはクラウドの言葉を思い出しなが、調理室の掃除をしていた。
「…クラウド…」
一通り掃除が終わり、最後に元栓を閉じて、火の元を確認する。調理室の鍵を閉めて、担当の先生に鍵を返した。
調理室から近いため、道場から起こる激しい音が廊下にまで響き渡る。
ティナは勇気をだして、道場入口に向かった。
エース同士の戦いが繰り広げられていた。クラウドと相手の隙のない攻防は延長まで持ち込み、互いに体力の限界が近づいている。
「っ(ここで隙を見せれば取られる)」
クラウドは必死に相手の出方を読み、攻める。だが、相手も引きを取らぬ強さで攻めてくる。
相手がすっと胴を開いたのを見計らいクラウドはすかさず胴を打ちに行く。しかし、それが罠だと気付いた時には相手の面がきていた。
クラウドだけでなく、ギャラリーも取られたと瞬時に直感する。
《ごめんなさい…》
《見ていてくれ》
《クラウド…》
《あんたが、自分を責めるなら、俺は…あんたが自責する必要はないと証明する》
クラウドは先程、ティナとのやり取りを思い出す。
「(俺は…)」
相手の面がクラウドの面を打つすんでのところで、クラウドは素早く首を傾ける。面は避けられたが、肩に竹刀の打ち込みをくらうが、怯むことなく刺し面を打ち込んだ。
クラウドの刺し面が入ったのだ。
審判の旗が一斉にクラウドの身に着ける色を上げられた。
クラウドは一礼し、喜ぶ部員たちから喝采をあびる。
そして、道場内では有り得ない少女の声を聞く。
「クラウド!」
「!」
クラウドだけでなく、道場にいる全員が振り向く。そこにはクラウドだけを見詰め笑顔のティナ。
クラウドはティナに歩み寄る。
笑顔のティナにクラウドもつられて微笑む。
「クラウド。おめでとう」
「ああ。ダメかと思ったけどな…」
「え?」
「だが、あんたを想ったから、勝てた」
「私?」
「それより、あんたのせいじゃない。って解っただろ?」
「…うん。ありがとうクラウド」
「いや…礼を言うのは俺のほうだ。ありがとう」
二人は笑い合う。
その様子に、ギャラリーがはやし立てたのは言うまでもない。
それを振り払うようにクラウドはティナを道場から離れるように告げた。
一応、部活動の時間なのでクラウドは気を取り直し集合する。
顧問や相手高の話などを聞きながらクラウドは思う。
−あんたの笑顔が見たいから、頑張れる−
END
………
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